第30話「俺は、……が」
翌日。
キクコちゃんと一緒に出勤して、所長に経過報告をした。
「直接会えなかったのは残念だけど、これで目的は果たせるね」
所長がそう言ってくれた。
「んだ。これでひいじっちゃを故郷に返せるだ」
「よかったね。それであっちとこっちを行き来できるようになるだろし」
「はい?」
なにそれ、そういうのってあるの?
「あ、ごめんね。ただの僕の想像だよ。分骨すればそれが目印となってあの世からならどこでも、異世界でも行けるんじゃないかなって思ったんだ」
所長が頭を搔きながら言った。
「ああなるほど、案外そうかもですけど。っとそうだ、所長、あれ教えてくれてありがとうございました」
俺が広島での事を言うと、
「ああ、あれが役に立つとはね。江戸時代の武士だったご先祖様があれで世界の破滅を企てた魔物を倒したなんてとんでもない言い伝えがあったけど、実際に魔物みたいなのがいたんだし、ご先祖様のも本当なのかもね」
だとしたらこの人のご先祖様、世界の救世主じゃねえか。
凄すぎとしか言えねえよ。
「それで、次の日曜日だよね」
「はい。納骨をしてこの依頼は終わりです」
「うん。じゃあ事務所としても香典出すよ。これも福利厚生費だから気にしないで」
そうなのか、って前の会社でそう習ったな。
いや法要とかで出すものじゃないと思うけど、大企業だとあったりするのかな?
「あと土曜日から移動して日曜日にすぐに帰るのは疲れるだろ。お祖父さんとお祖母さんにも孝行するとして、出張は三日間で火曜日にまた出勤して」
「あ、ありがとうございます、そうさせてもらいます」
ほんと何から何まで……こんないい所長、他にいないよ。
「うん。さてと、少しお願いがあるんだけど」
所長がキクコちゃんの方を向いて言った。
「んにゃ、なんだべさ?」
キクコちゃんが首を傾げると、
「都合がよければ伊代につきあってあげてほしいんだ。家では大丈夫だけど、一人で出かけるとか言われると少し不安なんだよ」
ああ、料理とかされてたけどまだ本調子じゃないんだ。
「分かったべさ。よければ早速行くべ」
「うん、お願いします」
そしてキクコちゃんは所長達の家に向かい、所長と俺は通常業務に入った。
――――――
夕方になり、仕事が終わって帰るとキクコちゃんは先に帰っていて、夕食の支度してくれていた。
「おかえりなさいだべ。すぐごはんにするだか? お風呂先にするだか?」
それ、なんか夫婦みたいだな。
その後に「それともあたす?」って言われたら……。
「隼人さん、なんか顔赤いけど、どしたべ?」
キクコちゃんが首を傾げて言った。
「え? あ、なんでもないよ。って一休みしたらごはん食べるよ」
「んだ。じゃあ用意して待ってるべ」
あの、撃たないでくださいね。
ただの妄想ですから。
その後、キクコちゃんが作ってくれた炊き込みご飯に豚汁、副所長と一緒に行った
スーパーで買ってきてくれた刺身を食べながら今日の事を話した。
「伊代さんもよかったねって言ってくれたべさ。そんで明日また一緒に遊びに行こうって」
「うんよかった。それでどこに行くの?」
「浅草寺ってお寺とその先にあるでっけえ塔って言ってたべ。それってここからも見えるあれだって」
「そうだよ。あれは日本一、いや塔だけで言うなら世界一高いんだよ」
「そうなんだべか。そりゃすっげえべ」
「うん。634mあるんだけど、そっちにはそんな高い塔とか建物無いの?」
「一番高いのは国造りの神様を祭ってる神殿で50mだべ」
「へえ。もっと高いのがありそうなのに……ん? ねえ、その神殿ってもしかしてこんな感じ?」
俺がスマホで検索したものを見せると、
「あ、殆どおんなじだべさ。こっちにもあるんだべなあ」
古代出雲大社だよ、これ。
もう偶然じゃないよな。
それからもいろいろ話し、楽しい時間が過ぎていった。
……キクコちゃんがいるのはあと十数日か。
会ってからたった二週間ほどだったのに、なんかもうずっと一緒にいる気がする。
熊本でもそう思った……これからもずっと一緒のような。
……そういや、異世界への扉って俺でも潜れるのかな?
やっぱ魔法使いじゃないと無理だとか?
いや与吾郎おじいさんが通れたんだし、いけるのか?
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
扉について尋ねると、
「どうだか分からねえべさ。あたすだって成功するかどうかは賭けだったべ」
「え? じゃあ、帰る時も?」
「それは大丈夫だべさ。あっちへは瞬間移動魔法の要領で帰れるべ」
「じゃあさ、もし大丈夫だとしたら、俺が着いていってもいけるの?」
「駄目だべ。扉は一回開くごとにつき一人しか通れねえんだべさ」
キクコちゃんはそう言って頭を振った。
「……え? そ、そうなの?」
「んだ。何人でも通れるなら自分も着いていきたかったって、お師匠様が悔しそうに言ってたべさ」
「そうなんだ、じゃあ……っ!?」
俺は慌てて口を押さえた。
「なんだべ?」
「い、いやごめん、口の中噛んじゃった」
「あんら、大丈夫だべか?」
「うん。あ、この豚汁ほんと美味しい」
俺、今何を言おうとした?
ここにずっといてくれって……。
そんな事許されるはずないだろ。
だってそれは家族や友達、お師匠様やお兄さん当然の陛下とおそらく二度と会えなくなるって事なんだから。
けどそれ、なんとかならないかなあ。
所長の話じゃないけど、何かの方法で目印つけたら自由に行き来できるとかにならないかな。
……え?
あ、そうか……。
自分でも気づかなかったって、今頃気づくってアホか。
俺は、キクコちゃんの事が……。
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