第25話「出会いのおかげ」

 翌日の朝。

 ホテルを出て駅までの道を歩いていた。

 

 昨夜は寂しげにしていたキクコちゃんだったが、今はもう元気になっている。

 無理してないかとも思ったが、そうでもなさそうでよかった。

 というか俺も気持ちを切り替えないとだ。


「んで、こっからどんくらいだべさ?」

 キクコちゃんが歩きながら聞いてきた。

「電車で一時間半くらいで、その後バスに乗るよ」

「結構遠いんだべなあ。あ、そうだべ。帰りは魔法使うべさ」

「いやいや、せっかくだから飛行機にと思ってるんだけど」

 空からの景色を見たらどういう反応するだろ。

 って浮かべるくらいだから空飛べるか?


「あ、スマホで見せてもらったあれだべか。あれって一般人が乗ってもよかったんだべな」

「そうだよ。てかどうしてそう思ったの?」

「あたすんとこでは国の許可貰った人しか空飛んじゃいけねえんだべ。許可が無い人が飛んでたら撃ち落とされちまうだ」

「そうなのかよ。けどそれ、どうやって見分けているの?」

「詳しくは知らねえけんど、特殊な呪法で目印つけてるからそれで分かるそうだべ」

 うーん、まあ誰でもだと最悪の場合、空襲されるかもだからかな?

 


「あ、駅に着いたべさ。あの熊さんともお別れだべな……」

 キクコちゃんがまた少し寂しげになった。

 あ、そうだ。

「ちょっとここで待ってて」

 俺は売店に向かった。




「ありがとございますだべ。いいお土産できたべさ」

 俺は運よく売っていたあの熊の小さめのぬいぐるみをキクコちゃんにあげた。

 喜んでくれてよかった。

「いえいえ。さ、そろそろ電車来るから行こうか」

「んだ」


 


 電車とバスを乗り継いで二時間程。

 着いた場所は、天草のとある町の海辺。


 わんどりーむさんが教えてくれた場所で、その奥さんのお祖父さんが住んでいた場所でもあって、アキコさんという人もいた。

 ただアキコさん以外の知り合いがもうここにはいないらしいし、連絡先も知らないそうなので自分で聞いて回るしかないのだが。


「静かで綺麗なとこだべなあ」

 キクコちゃんが辺りを見ながら言う。

「そうだね。えっと、このアングルが似てるな」

 俺が写真と景色を見比べながら呟いていると、


「おや、何処から来られました?」

 角刈りの白髪で背の低いお爺さんが俺達に話しかけて来た。


「あ、はい。東京からです」

「そうですか、遠い所からようこそ。今日は観光ですか?」

「いえ、私は探偵で人探しをしているところです。そうだ、この辺りに本条明子ほんじょうあきこさんという名前で、歳は九十~九五歳くらいの方がいるかご存知ないですか?」

 用件を言うついでに聞いてみたら、


「それはうちの母ですが、何の御用で探していたのですか?」

 お爺さんがそう言った。

「え? えっとあの、お母さんの旧姓は桐山さんですか?」

 もしかして、当たり?


「ん? いえ違いますね」

 そう言ってお爺さんが頭を振った。

「そうですか……」

 じゃあせめてわんどりーむさんの奥さんのお祖父さんの事をと思った時だった。


「あ、そうだ。母には同じ名前の友人がいて、その人を『キリちゃん』と呼んでいました。それは旧姓を縮めてだったと聞いていますが、桐山だったかはちょっと覚えていないですね」

 お爺さんが腕を組んでそんな事を言った。


「え? あ、あの、失礼ですがお母さんはどこにいらっしゃるのですか?」

 ご存命っぽいけど具合が悪いとかだと、話なんかできないかも。


「ああ、母なら病気らしい病気もせず元気で、今日は家にいますよ。さ、ご案内しますよ」

 お爺さんが俺達に言ってくれたが……。

「え、あの急に行っても大丈夫なのですか? それに」

 俺達がヤバい奴だったらどうするのと心の中で思った時だった。


「はは、心配してくれてるんだな。大丈夫、俺は人を見る目には自信があるんだよ。そうでなかったら話しかけていないぞ」

 お爺さんが口調を変えて笑いながら言った。


「そうなんですね。すみません、お願いします」

 俺達はお爺さんに案内され後を着いて行った。


 その途中でお爺さんがこんな事を話してくれた。

「俺は若いころ家を飛び出して大阪に行ったんだ。そこで一旗あげてやるって。けど具体的に何をするか決めてなかったもんだから職についても長続きしなくて、毎日フラフラしてたよ」


 そんなある日な、むしゃくしゃして道行くおっさんに絡んだら大喝されてしまったんだ。

 ひ弱そうに見えるのになんだこの気迫はって縮こまってしまったよ。

 そして延々と説教されて、うちで働けとか言われてその通りにしたんだ。

 初めは全然だったが、段々とできるようになってなんか面白くて。

 その人の娘さんと強引に見合いさせられたものの、本当に惚れちゃって結婚して。

 子供も生まれてあっという間に孫もできて……。


 もし義父と出会ってなかったら、人を見る目を養えと言われなかったら、俺はとっくに野垂れ死んでいた、今見える幸せはなかっただろなあって思ったよ……。


「そして定年してからかみさんとこっちに戻ってきてな、母親の面倒見てるんだ」

 そうだったんだ。ほんといい出会いがあるのと無いのとではだな。

 俺もこの人とは違うけど、所長との出会いのおかげだったし。


「あんの、じっちゃのおっかあはそれまでずっと一人だったべか?」

 キクコちゃんが気になったのか尋ねた。

「いや独身だった弟が面倒みてくれてたんだが、先に逝っちまってな。今までの親不孝を詫びるのもあってな」

「そうだったべか。昔は知らねえけんど、今のじっちゃはいい徳の気配あるべさ」

「そうかな? そう言ってもらえると……お、ここだよ」


 話しているうちに家に着き、お邪魔することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る