第24話「ずっといるもののように思ってた」

 わんどりーむさんに連れてきてもらった馬刺し専門店は大通りから外れた場所にあって、古い家を改装したっぽかった。

 中に入ると客は少なく、静かな雰囲気。

 隠れ家的な店だよってわんどりーむさんが教えてくれた。



 席についておすすめのコース料理を注文した後、改めて自己紹介して話し始めた。


「次が分かる限り最後の場所なんだね」

 わんどりーむさんがお冷を飲んだ後で聞いてきた。

「ええ。ここまででいくらかの手掛かりは得られたのですが、もし次でもダメだったらそれ以外の所にもと思ってます」

「そうなんだね。僕も他に似たような場所ないか調べたり知人に聞いたりしてたんだけど、ごめんね」

「いえ、そんな。天橋立と次の場所はわんどりーむさんが教えてくれたのですし」

 それまではたまに話すくらいだったが、この件があってから何度もやり取りしている人。

 最初見た時は爆発しろだったが、心もイケメンだったわこの人。


「少しはお役に立てたようで。あ、ちなみに宮津は僕の故郷だよ」

「そうだったんですか。じゃあもしかして、次の場所は奥さんのとか?」

「奥さんは鹿児島だけど、お祖父さんが子供の頃あそこに住んでいたんだって。それでお祖父さんに聞いたらね、昔お世話になった近所のおばさんの名前が明子さんらしくて、年齢もだいたい同じくらいだって」


「え、そうなんですか? それ、大きな手がかりかもです」

「けどキクコさんが探している人かどうかは分からないよ。お祖父さんは明子さんの旧姓は知らないし、お兄さんがいたかどうかも聞いてないみたいだから、たまたま名前が同じ人かもだし」


「違ってたとしても、なんもしないよりはいいべ」

 キクコちゃんが言った。

 そうだよな。


「そうだね。僕も何もしないよりは何かした方がって思うし。あ、料理来たから後は食べながらね」

「はい」


 その後はお互いの事(キクコちゃんの事は当然誤魔化してるが)を話しながら料理を堪能した。

 なんというかあっさりしてて美味い。

 キクコちゃんも馬肉は初めてだったらしく、美味しそうに笑みを浮かべていた。


「あ、そういえば奥さんとはどこで知り合ったんですか?」

 ちょっと気になったんで聞いてみた。

「うん、企業秘密だからどんなのかは言えないけど、以前社長直轄の一大プロジェクトがあってね、それで本社に呼ばれた際、九州支社から来ていた彼女と会って互いに一目ぼれであっという間にだったよ」


「うわ、そんな大プロジェクトに呼ばれるって、お二人友凄いんですね」

 この人、何の仕事してるかもごめんねだったけど。


「はは、奥さんは凄いけど僕は全然ダメダメで、一つ前のプロジェクトに呼ばれるまでは存在忘れられてるって感じだったよ」

「え、そうなんですか? それでなぜ?」

「今はもう引退した本社の取締役が以前僕を見かけていたらしくて、『彼は大きな経験を積ませれば会社を担う存在に成長する』とか言って推薦してくれたんだ」

「へえ。それでその通りにですか」

「どうだかね。けど以前より若干目立つようになったし、役に立てているという実感はあるよ」

 わんどりーむさんが笑みを浮かべて言った。

 つかあんた、その顔で目立たない訳ないだろ。

 単に気づいてないだけじゃ?


「なんか分かんねえけんど、いい出会いがあったのは分かるべさ」

 キクコちゃんも笑みを浮かべて言う。

「ありがと。あの人のおかげで次も呼ばれ、そして奥さんと会えたからね。ほんとずっと感謝してるよ」


 俺もわんどりーむさんには敵わないまでも所長が拾ってくれたおかげで今はだし。

 ほんとずっと感謝だな。

 

「そんで、その奥さんってどんな感じの人だべさ?」

 キクコちゃんが興味津々に尋ねた。

「ん、この人だよ」

 わんどりーむさんは胸ポケットからスマホを取り出し、画像を見せ……、


「……すみません、奥さんっておいくつですか?」

「同い年だよ」

「そうですか、へえ」

「あんの、これいつの絵だべか?」

 キクコちゃんも疑問に思ったようだ。

「今年のだけど?」

 わんどりーむさんが首を傾げる。

 

 そこに写っていたのはえらく裾が短くて足丸出しの白い着物を着た、どう見たってよくて中学生くらいのおかっぱ頭の女の子だった。


「失礼ですが、奥さんってよく若く見られませんか?」

「うん。僕より年下だと思ったら同い年だったし」

「へえ……もしかしてロリ」

「それもよく言われるけど、ちっちゃいからじゃなくて彼女だからだよ」

 わんどりーむさんがまた額に青筋立てながら言った。

「すみません、そうですよね」

 今なんか俺でも分かるくらいどす黒いオーラ出てた、怖え……。


「よかったべさ。ほんとにちっちゃい子だったら、あたすの国だと死刑だべさ」

 キクコちゃんが顔をしかめて言う。

「そりゃまた凄い国だね。けどそれ日本も少しは見習えだよね」

 ほんとそうだよ。

 なんだよ……しといて何年かで出て来るって。


「まあそれはもう置いて、他の話しよ」

「あ、はい」




 そこからまたいろいろな話をして、二時間くらい経った頃に店を出た。


「あの、今日はありがとうございました。それとご馳走様でした」

 ここの支払いは全部わんどりーむさんがしてくれた。

 出すって言ったのに。

「いやいや、僕が薦めた店だしね。それにダンさん、いや隼人さんとキクコさんに会えてよかったから」


 本当はあまり無いのかもだけど、わんどりーむさんにも本名を言った。

 わんどりーむさんも本名を教えてくれた。

 早川祐はやかわゆうさんでついでに「ハンネは好きな地元の戦国武将の名前を英語にしたものなんだ」って話してくれた。

 それは稲富一夢斎いなとみいちむさいという人らしいけど誰だろ?

 後で調べよ。




「見つかる事を祈ってるよ。それじゃあまた」

 そう言ってわんどりーむさんは去っていった。



「ほんといい人だったべさ。けんどできれば奥さんとも会いたかったべな」

「ん? また今度……あ」

 そうだった、キクコちゃんはあと十数日したら帰るんだった。

 そしてもう二度とこの世界に来れないんだった。


 なんかもう、ずっといるもののように思ってた。

 ずっとキクコちゃんと……って。


 その後は何も話さないまま、ホテルに着いた。

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