第15話「させてくれだべ」

 俺たちは目的地に向かうため、難波から高速バスに乗った。

 電車でもいいんだけど調べたらバスの方が楽そうだし、どうせならキクコちゃんを高速バスに乗せてあげたいなと思った。

 今も隣でバスの中や外の流れる景色を眺めている。


「次に行くところがひいじっちゃの故郷だったらいいんだけんどなあ」

 そうだったらいいんだけど、どうだろな。




 お昼過ぎ、着いた場所は天橋立。

 風は少し冷たいけど天気がよくて遠くまでよく見える。

 日本三景なだけあって、ほんと絶景かなだよ。


 少し歩いてフォロワーさんがあげてくれた景色と似ている場所に来たが、ここだという決め手がなかった。

 

 さてこっからどうするかって、聞き込みだな。


 もしかするとヨゴロウさんとアキコさんを知っている人はもう誰もいないかもしれないが、やらないよりマシだ。


 ってあれ、キクコちゃんはどこ行った?

 と思って辺りを見ると、ベンチに座っている人に声をかけていた。


「あんの、大丈夫だべか?」

「ふえっ!?」

 顔を上げたその人が何かえらく驚いてる?

 あ、そうか。見た目外国人のキクコちゃんが訛った日本語で話したもんだからか。


「あの、本当に大丈夫ですか?」

 よく見ると俺と同年代かなで、コートとGパンという服装の女性だったが、ほんと疲れた顔していた。

「あ、はい。もう大丈夫」

 そう言って彼女が立ち上がろうとしたが、

「うぉっと!?」

「す、すみません」

 よろけて俺に倒れ掛かってきた。

 うわ、着瘦せするようで結構……いかんいかん。


「このお茶飲むがいいべ。疲れが吹っ飛ぶべさ」

 キクコちゃんが水筒を取り出し、お茶を注いで彼女に差し出した。

 あれ、何か怒ってないか?


「え、嘘? 体が軽くなった?」

 お茶を飲み干した彼女が自分の手を見つめながら言う。

「よかったべさ。けどやっぱちゃんと休んだ方がいいべ」

「ええ、ありがとうございます」


「ねえ、それって魔法の薬?」

 小声で聞いてみた。

「違うべ。綺麗な湧き水に薬草を煎じて混ぜたもんだべさ」

「へえ~、そんなのもあるんだ」

「これもひいじっちゃが作っただ。聞けば緑茶に似たものを作ろうとして、偶然そうなっただと」

 だからヨゴロウさん、あなた素でチート過ぎだ。


「すみません、観光中だったでしょうに」

 女性がそう言って頭を下げた。

「いえ仕事ででして。あ、私は東京から来ました探偵の諸星という者です」

「あたすは諸星喜久子だべ」


「私は楠木友里くすのきゆりと言います。あれ、お二人はご兄妹ですか?」

 楠木さんが首を傾げて言う。

「いえ、依頼人であるこの子と偶然苗字が同じだったんです」

「それも何かの縁だって、所長さんが計らってくれたんだべさ」

 その後でここへ来た理由を話した。

 

「そうですか。喜久子さんのひいおじいさんの妹さんを」

「はい。なのでこの辺りに住んでる人で当時の事を覚えている人か、その事に詳しい人知らないですか?」


「私は亡くなった曽祖母からよく聞かされてましたけど、ヨゴロウさんとアキコさんという方は聞いたことないです。けど曾祖母の友達がまだ何人かいますので、聞いてみますか?」

「はい、お願いします」




 友里さん(名前で呼んでほしいというので)に案内されて着いた場所は、築年数は結構経ってそうだが、壁は綺麗な建物。

 見たところ介護施設のようだ。

「ここ、私の職場なんです」

 友里さんが建物を指して言った。

「え、介護士の方だったんですか」

「はい。ここは父が始めたんですが、今は過労で倒れて……寄付してくれる人はいるんですけど、人手はなかなか集まらないんです」

「やっぱ大変だからですか?」

「ええ」

 そうだろなあ、聞いてるだけでも俺には到底無理だって思うし。


「あたすんとこじゃ身寄りないじっちゃやばっちゃは村全体で面倒見るし、国からも必要なもの持ってくるんだけど、日本はそうでねえべか?」

 キクコちゃんがそう言うが、

「どこも喜久子さんの国みたいだったらいいんですけどね……」

 友里さんが項垂れた。

 うん、なかなか理想通りにはいかないよな……。



 中に入ると、そこにいたのはもうかなりのご老人達。

 皆さん俺はともかくキクコちゃんを珍しそうに見ていた。

 そりゃ外国人(みたいなもんか)なんて普段は来ないだろうしな。


「さてと、まだ来てない皆さんを食堂に」

「友里さん、あたすも手伝ってええべか?」

 キクコちゃんが手を挙げて言った。

「え、すみませんが慣れていない方は」

「あたす、ひいじっちゃやさっき言っだ身寄りないじっちゃばっちゃの面倒も見てたから経験あるべさ」

「けど……」

「させてくれだべさ」

「すみません。少しでいいのでお願いします」

 キクコちゃんは引かないからなあ。


「分かりました。じゃあこっちへ」


 その後、キクコちゃんが一人ひとり慣れた動作でお年寄りを食堂に連れてきた。

 それを見た皆さんが目を丸くしていた。

 

「あの、もしかしてご家族に介護士さんがいます?」

 友里さんが合間に聞いたら、

「介護士ってのが面倒見る人の事なら、ばっちゃやおっかあが国から資格貰ってるべさ。あたすは二人に教わったべ」

「やっぱり。きちんとした方法教わっているのならそう言ってほしかったですよ」

「言うべきだったべか、ごめんなさいだべ」

「あ、いえこちらこそごめんなさい」

 二人共頭を下げた。

 しかしキクコちゃんの家族って凄い人ばかりなんだな。


 その後、俺も手伝わさせてもらったが神経使うしほんと大変だった。

 礼を言ってくれたお婆さんがいたが、役に立てた?


 あとキクコちゃん、こっそり水の魔法使って部屋を掃除したそうだ。

 ってそれ倒れるんじゃ?


「水の精霊が久しぶりに呼ばれたと喜んでくれて、たくさん力貸してくれたべ。おかげで殆ど疲れなかったべさ」

「そうなんだ」

 俺には見えないけど……あの、ありがとうございます。


 視界の隅できらっと何かが光った気がした。

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