第13話「なんでだろな」

 土曜日の朝。

 夜行バスで行くつもりだったが、軍資金貰ったので新幹線で行く事にした。

 最寄り駅まで来るとキクコちゃんは辺りを見渡して目を丸くしてた。


「こうやって買えるんだよ」

 券売機で切符を買い、キクコちゃんにも渡した。

「あ、馬車の切符みてえなもんだな。んで、これどこで見せるんだべ?」

「昔はそうだったけど、今は自動だよ」

「ひゃあ」


 ホームに上がると反対方向への電車が出た後だった。

「ひゃああ、あれも電気で動いてるんだべか?」

 キクコちゃんが遠ざかる電車を見ながら言う。

「そうだよ。バスよりも早いんだ。あとで見る新幹線の方がもっと早いよ」

「そうだべか。電車もバスもあたす達の世界にあったら便利なんだけんど」

「だよね。ってそういや科学ってそっちにあるの? やっぱ魔法があるから無い?」

「あるけんど、昔は忌まわしいものとかで禁止だったべさ。けんど上皇様がまだ陛下だった頃、それを撤廃してくれたんで自由に科学の研究出来るようになったべ」

「今までそうだったのを変えるって大変だっただろうに、凄い方だな」

「ひいじっちゃが便利なものを色々こさえてくれたのを知って、魔法だけに頼らないようにしようと思ったって、陛下が話してくれたべ」

「へえ……あれ? 陛下って誰でも直接話せるの?」

「誰でもって事ねえべ。陛下はお師匠様の弟子であたすの兄弟子でもあるし、あたす達家族とも昔っから付き合いあるからだべ」

「うおっ!? そ、そうなの!?」

 いや、お師匠様って世界一らしいから陛下の家庭教師くらいするよな。

 あとキクコちゃんの家族も凄いわ。


「んだ。だからあたすにとって陛下は、歳の離れた兄ちゃんみたいなもんだべ」

「え、陛下って結構若いの?」

「今年で三十五歳だべ」

「そうなんだ……え?」

「どしたべさ?」

「いや、なんでもないよ」


 ……陛下ってこっちの暦で言うと平成元年生まれって事になるよな。

 聞けば即位したのが五年前。

 歳は違うけどこれ、偶然と言っていいのか?


「あんら? あのじっちゃとばっちゃどうしたんだべかな?」

「え?」

 キクコちゃんの目線の先を見ると、瘦せた感じのお爺さんとお婆さんが何か探している様子だった。

 うん、ほっとけないよな。よし。


「あの、どうかされましたか?」

「ん? ああ、エレベーターはどこにあるかなあと思ってね」

 お爺さんがこっちを向いて言った。

「ああ。あっちの方、少し歩いたところにありますよ」

 俺が反対方向を指して言うと、

「ああ、あっちか。どうもありがとう」

「すみません。わたしエスカレーターだと転げ落ちそうで怖くて」

 お爺さんとお婆さんが軽く頭を下げて言った。

「いえいえ。あ、よければ案内しますけど」

「いや大丈夫だよ。ほんとありがとな」

 そう言ってお爺さんとお婆さんは歩いて行った。

 お爺さんが時折お婆さんの手を取りながら。


「……」

「どうしたんだべ?」

「うん、亡くなった祖父ちゃんと祖母ちゃん、父さんの両親を思い出したんだ。生きてた時はあんなふうによく手を繋いで歩いてたなって」

「そうだったべか。あ、ひいばっちゃはじっちゃのお母さんだべな……じゃあ、息子さんに先立たれたべか」

「うん。でも祖父ちゃんは七人兄弟の長男で他はまだ健在だし、近所には祖父ちゃんの弟さん夫婦が住んでるから大丈夫だよ」

「ありゃ、なして一緒に暮らさねえべか?」

「一人の方が気楽だし、たまに様子見に来てくれたらそれでいいんだって。どうせ動けなくなったらそのまま行っちゃうだろとか、縁起でもないこと言いやがる」

「ほんと大丈夫だべか?」

「九十超えてるけどまだまだ元気だよ。あ、電車が来た。乗ろうか」

「んだ」



 そして東京駅。

「しっかす人が多いべさ」

 ほんと混雑してるな、今は。

 外国人をやたら見かけるわ。

 

「あれが新幹線だべか~」

「そうだよ。人が歩いて十日程の所へ二時間半で行けるんだ」

「ひゃあ、すっげえべさ」

「だよね。これ、ひいおじいさんがそっちに行ってから十数年後にできたんだよ」

「そうだべか。ひいじっちゃにも見せたかったべ」


 その後、キクコちゃんは窓の外に映る流れる景色を見てははしゃいていた。

 ちょっと声が大きいから静かにと言ったが、防音魔法とかで周りに聞こえないようにしてるって。

 うーん。ま、いいか。




 新幹線を降り、地下鉄に乗り換え。

 着いた先は大阪市の南側にあるとある区。

 ここに俺の父方祖父の母、ひいばあちゃんが住んでいる。

 元々ひいばあちゃんと亡くなったひいじいちゃんはこの辺りで生まれた。

 昔は俺んちの近所にいたみたいだけど、俺が生まれた頃に戻ってきたそうだ。

 最後は故郷で終わりたいからって。

 

 俺も父さんに連れられてたまに来ていた。

 前は成人式の後だったな。

 ひいばあちゃん、泣いて喜んでくれたもんだからこっちも泣いちまったよ……。



「よう来たねえ。あら、そちらが電話で言ってた喜久子ちゃん?」

 ひいばあちゃん、ほんとまだまだ元気そうだ。

「はじめましてだべ。諸星喜久子だべさ」

「あらあら、うちと苗字が同じって偶然ねえ」

 ひいばあちゃんには外国から来た依頼人と言ってある。

「そうだよね。あ、早速だけど」

「ええ。居間に置いてあるわよ」


 その後、ひいばあちゃんが用意してくれていたアルバムや小冊子を見ていった。

「へえ、ひいじっちゃと同じ服着た人がたくさんだべさ」

 キクコちゃんがアルバムを眺めながら言う。

「ひいばあちゃんや亡くなったひいじいちゃん、じいちゃんやその兄弟が写真や資料を集めたんだ。未来に残すためだって」


「そうよ。わたし達も伝えようと思ったのさ。あの軍神宿の事を聞いた時にね」

 その宿屋の事はもう十年以上前だったか、ドラマにもなってた。

 二人はそれ以前に親戚の人から聞いて知ったとか。


「そうだ。ここはあまり知られていないと思うけど、原爆の模擬爆弾が落ちた地域の一つなんだよね」

「ええ、でもそうだとわかったのは平成になってからよ」

「そんな雰囲気全然無いもんね」


「それってなんだべ?」

「あ、えっとね……」

 ザクっと説明した。

「そ、そったらもんがあるんだか?」

 キクコちゃんは震えながら言った。


「あら、聞いたこと無いの?」

 ひいばあちゃんが首を傾げる。

「戦争があったってのは知ってるけんど、そこまで知らなかったべ」

「そう。外国だと教わる機会がないのねえ」


 いや、どうなんだろな?

 俺でも生まれる前にあったベトナム戦争や湾岸戦争を知って……。

 いや、そこにいた人達の苦しみや悲しみは俺の想像以上だったろうな。

 そして今はテレビやネットで見聞きして、幾らか分かったつもりになっても……。


 なんで無くならねえんだろな……。

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