第11話「ちゃんと考えて決めたんだな」
翌日。
午前中に書類整理など済ませ、昼食後にキクコちゃんに来てもらってから事務所を出た。
事務所から徒歩数分の所にある少し年数が経っているマンション。
ここに所長と副所長が住んでいる。
「ひやぁ、こんな大きなお家に住んでるんだべか?」
「いやいや、ここの一室だよ。えっと集合住宅ってそっちに無いの?」
「それならあるけんど、こんな立派なもんじゃねえべさ」
「そうなんだ。まあそれは後で」
エントランスのインターホンで番号を押すと、すぐに所長の声が聞こえた。
「やあいらっしゃい。さ、どうぞ」
「へ、これも電話だべか?」
キクコちゃんがインターホンを指して言う。
「うーん、似たようなもんか? ま、入ろう」
入ってすぐの所にあるエレベーターで最上階まで行き、角部屋へ。
またインターホンを押すと、すぐにドアが開いた。
「久しぶりね。それとキクコちゃんね、いらっしゃいませ」
背が俺や所長より高く、ミディアムヘアでちょっと目が鋭い女性。
この人が副所長の
しかし相変わらず美人だし、おっきいお胸。
「隼人君、手を出さないでね」
副所長の後ろにいた所長がニヤつきながら言ってきた。
「出しませんって!」
「それがいいよ。出したら最後、殺されるから」
「ちょっとあんた、あたしそんな乱暴者じゃないわよ」
副所長が所長を睨んで言う。
「何言ってんだよ。昔僕をボッコボコにしただろ」
「それはあんたがあたしはおろか、お母さんもやらしい目で見てたからよ!」
今度は声を荒げて言った。って、
「し、所長、それはいくらなんでもヤバいでしょ」
ほら、キクコちゃんが俺の背中にしがみついて震えてるって。
「待って、誤解だから。たしかにお母さんも美人だと思ったけど、伊代が一番なんだからね」
「う、この男はもう……」
怒鳴ってたかと思ったら今度は抱きついていちゃつき出した。
「あの~」
「あ、ごめんね。伊代」
「ええ。さ、どうぞ。キクコちゃんはこっち」
副所長はキクコちゃんを連れて奥の部屋へ行った。
俺はリビングに通された。
リビングはあまり飾りっけがなく、必要最小限って感じ。
その方が落ち着くからって所長が前に話していた。
しばらくして、副所長がキクコちゃんを連れて……。
「うお、可愛い」
思わず口に出してしまった。
キクコちゃんはそれまでのセーラー服じゃなく、同年代の子が着てるような可愛い服装になっていた。
「嬉しいべさ。こんないいべべ着たことねえべ」
キクコちゃんが笑みを浮かべて言う。
「あたしのお古でごめんなさいだけどね。あ、下着もあげるから使ってね」
副所長がキクコちゃんに紙袋を渡して言った。
「所長、ありがとうございますって、どう話したんですか?」
俺が小声で尋ねたのだが、
「ふふ、聞いてるわよ。キクコちゃんが異世界から来た魔法少女だって」
なんか聞こえたようで、副所長がそう言った……。
「あの、そんな話を信じるんですか? 俺だって実際見てないと信じませんよ」
「ええ。だってあたしも異世界はあるって信じてたからね。本当にあったんだって喜んだわよ」
副所長もあれだなあ。
「思ったけんど、なんであたすのサイズ知ってるんだべ? これなんかピッタリだべ」
そう言ってシャツを捲って水色のブラを……見せんな!
「ん? そりゃ雰囲気や仕草、特徴をよく見て推理した結果さ」
所長がなんでもないかのように言う。
「ひゃあ、すっごいべさ」
「そうか……俺なんかまだまだ」
「隼人君、騙されちゃダメ。ただ単にこいつがドスケベなだけよ」
副所長が所長を指して言う。
「てか、それはそれで凄いと思いますが」
「ははは……ま、お茶でも飲みながら話そうか」
それからは互いの近況、キクコちゃんの世界の事を話した。
「へえ、お父さんはお役人さんなのね」
「んだ。上皇様が陛下だった頃に言われたそうだべ。頭いいんだから自分や将来は息子を助けてくれって」
そうだったのかよ。お父さんも凄い人なんだな。
「あ、そうだ。前に聞きましたが、副所長のご両親はお仕事の都合で外国に行かれてたんですよね?」
「ええ。それであたしは父方祖父母に預けられたんだけど、祖母が病気になって祖父がその介護に追われてね。母方の祖父母はその時もう亡くなってたし、両親揃って兄弟がいなかったのもあって、それならと言ってくれた親戚の女性に一時預けられたの。そこにこいつもいたって訳よ」
「所長はどうして?」
「うちも当時両親が揃って仕事で忙しくてね。それで父方祖父母にと思ったら、こっちは祖父が急に倒れたんだ。母方祖父母と伯父が遠方に住んでいて面倒みるとは言ってくれたけど、僕が遠くへ行きたくないとごねたんだ。父には妹さんがいるけど、父方祖母も体調を崩しがちになったんで、祖父母の面倒をみるのが精一杯だった時、その親戚が僕の面倒をみると言ってくれたんだって」
「そうそう、さっきあたしとこいつが言った『お母さん』は、その人の事よ」
「そうだったんですね。それでそのお母さん、今はどうされてるのですか?」
俺が聞いた途端、二人は暗い顔になって俯いた。
「あの、すみませんでした」
「あ、ゴメン勘違いさせて。お母さんは今も元気にしてるよ、ただね」
「長い間独身でやっと結婚できたせいか、頭がお花畑になっちゃったの、これ」
副所長のスマホを見せてもらうと、なんか魔法少女っぽい服着た女性が旦那さんらしき人にラッコみたいに抱きつきほっぺにチューしてる画像が出てた。
キクコちゃんは呆然としていた。
「あの、お母さんってお幾つなんですか?」
そこに写っている女性はどう見たって所長達と同じくらいの歳といった感じだった。
「さあねえ? 本人は昔っから『私って実は天使で、永遠の十七歳なの~♡』って言ってたわ」
それだとずっとお花畑では?
それともおいおいか?
「あんの、伊予さんのご両親は何のお仕事してるだべ?」
「詳しい事は言えないけど、ちょっとだけ。両親は紛争地域に行って情報収集とボランティアをしていたのよ」
「へえ、それがどうして……情報収集ってまさか」
「それ以上はね」
副所長は口元に人差し指を立て、ウインクした。
……秘密諜報員?
「でね、あたしも両親みたいにと思った事あるけど、こいつと一緒に国内で人の役に立つ事しようと思ったの」
「僕は最初、父の従弟が探偵やってるのを知ってそれに憧れてだったよ。けど今は伊代が言った通りだよ」
お二人共、ちゃんと考えて決めたんだな。
俺は……。
「さてと、そろそろ夕飯の支度するわ。あ、隼人君とキクコちゃんもどう?」
副所長が立ち上がって言う。
「え、ですが」
「あたしね、キクコちゃんともうちょっとお話したいのよ」
「うーん、じゃあご馳走になります」
「ありがとございますだべ」
俺達は夕飯も戴くことになった。
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