第7話「あんなに珍しそうに見ている」
その後、近くの家電量販店に行った。
これから先、連絡に必要だからキクコちゃんにもスマホ持ってもらおうと思って見に来たんだ。
キクコちゃんは身分証明書なんて無いから、俺が二台持ちにすればいい。
それでも利用料金節約できるプランあるのが調べたら出てきたしね。
「へえ、いろんなのがあるんだべなあ」
展示されているスマホを眺めながら言う。
「選べるものは限られるけど、その中で好きなの選んでね」
「あんの、いいだべか?」
不安気に言うキクコちゃんだったが、
「いいってば。あ、すみません」
近くにいた店員さんに声をかけて聞いてみたら、なんか今キャンペーン中で一世代前の機種がタダ当然で基本使用料も二年間実質無料になるプランがあった。
機種がってのは結構あるけど使用料までってあったのか?
まあラッキーだと思って早速機種選ばせてもらい、さっさと契約した。
「ありがとございますだべ。こんなええもん持たせてくれて」
キクコちゃんが選んだのは俺が持ってるのと同じ系統ので、薄いピンクのスマホケースに入れていた。
それもサービスでくれたけど……よく考えたらいくらなんでも安すぎないか?
だから他の人は怪しいと思って警戒したのかも、待たずに買えたし。
俺、早まったかな?
「あの店員さん達、徳の高い気が感じられたべ」
キクコちゃんが突然小声でそんな事を言った。
「え、そうなの?」
「んだ。ひいじっちゃからも感じられたべさ」
「そうなんだ……」
それが本当なら、いや本当なんだろ。
だったら大丈夫だよな。
「そうだ。せっかくだしもう少し散歩していく?」
「んだ」
俺達は店から近い所にある都市公園へ行った。
いつも人がたくさんいるよな、この公園は。
池や東照宮、お寺を見て回り。
かの銅像を見た時、キクコちゃんはなぜか首を傾げた。
「あれ、どうしたの?」
「この人、なんか怒ってるように見えるべ」
「そうなの?」
俺には普通の顔にしか見えないけどなあ。
「んだ。なんかあっちの方睨んでるようにも思えるべさ」
そう言って公園の入口側を指した。
「あっちに何かあるのか? えっと……あ」
「なんだべ?」
「いや、なんでもないよ」
スマホで地図見たら……いくらなんでも皇居を睨んだりはしないだろから、その先にある国会議事堂か?
……本当にどう思ってるんだろな、今の日本を。
その後、自動販売機でお茶を買って近くのベンチに座った。
缶のプルタブを開けてキクコちゃんに渡す。
「ちょっと熱いから気を付けて」
「へええ、あれっていつでも暖かいお茶が買えるべか?」
缶をそうっと受け取り、自動販売機の方を見て聞いてきた。
「今は寒いからそうだけど、夏場は冷たいものが買えるよ。あ、それって冷蔵庫と似たような感じかな」
「そりゃ便利だべなあ。あたすんとこじゃ氷や冷てえ飲み物は氷魔法でこさえるべさ」
俺的にはそっちの方がエコロジーと思うが、実際どうなんだろな。
「しっかすこの公園って、綺麗でいいとこだべなあ」
お茶を一口飲んだキクコちゃんは、辺りを見てそう言った。
「あ、うんそうだね。春だったら桜が綺麗だったんだけどなあ」
「そうだべか、残念だべ。あたすはそこまでいられないから」
「そうだよな、あと二十九日だし。ってそっちにも桜あるの?」
「あるべさ。初代陛下が植えたのが最初だって聞いたべ」
「そんな昔からあったんだ。って日本はどうなんだろ?」
後で調べたらやっぱ大昔からあったし、万葉集にも出てたみたいだ。
「ひいじっちゃも好きだったべさ。桜が咲く頃になると、よく昔の事を話してたべ」
「そうなんだ。きっと故郷にも桜があったんだろな」
「そこまでは話してくれなかったけんど、そうかもしれねえべな」
キクコちゃんはまた辺りを見て、少し寂しげに笑みを浮かべた。
「……さてと、そろそろ帰ろうか」
「んだ」
その帰り道、ちょっとコンビニにも寄った。
ごめんなさいだけどキクコちゃんの反応見てると楽しい。
こっちじゃ当たり前の事をあんなに珍しそうに見ているのが。
ペットボトルのお茶と夜食用のお菓子を買って家に帰り、晩御飯の準備。
今日はキクコちゃんのとこの郷土料理を作ってもらった。
「へえ、これっていろんな具が入ってるね」
味噌汁の中に大根とその葉っぱ、ごぼうにねぎに豆腐、白身魚も。
「あつめ汁って言うだ。これは大昔からあるんだべ」
キクコちゃんが自分の分をよそいながら言う。
「そうなんだ。なんか和風だからひいおじいさんがなのかと」
「ひいじっちゃも最初これ見ておでれーたって言ってたべ。似たようなもんがこっちにもあるみてえだから」
後で調べたら、似たようなどころかそのものがあった。
これも大昔からあるようだが、もしかしてヨゴロウさん以前にもあっち行った人がいて、その人がとか?
食事が終わり、お茶を飲みながらテレビを見ていた。
キクコちゃんも最初は驚いていたが、すぐに慣れてしまった。
聞けば遠見の魔法というのがあって水晶玉に映して見れるらしいしが、それは人が立ち入れない場所を見たり緊急時に遠くを見たりする時しか使えないらしい。
「それがこっちにもあったらいいんだけどなあ」
「お師匠様に聞いたけんど、遠見魔法もこっちじゃ波長が合わねえみてえだべ」
「そうなんだ。キクコちゃんはあっちで使ってたの?」
「あたすはまだまだ出来ねえべ。それよりこの女の人ってどんな人だべさ?」
キクコちゃんがテレビに映っている女性アイドルを見ながら言った。
俺はあまりアイドルに興味ないんだけど、このMIKANって人は別格。
歌も踊りも上手いし綺麗ってのもあるけど、人を惹きつける魅力と言えばいいのか、ほんとのアイドルってこの人の事を言うのかな?
そう説明したら、
「そうだべか……不思議だべ」
「え、何が?」
「この人、あたすの世界に伝わる歌の女神様と名前が同じで、顔も昔からある銅像とそっくりだべさ」
「そうなの? そりゃまた」
いや、実は女神様本人……な訳ないよな。
そうしているうちに時計は二十二時を回っていた。
「さて、明日は仕事だから俺は出かけるけど」
「あたすはお留守番させてもらうべ」
「うん。けどせっかくだし、近場を見て回ったらどうかな?」
「うーん、じゃあ気が向いたらするべさ」
「分かったよ、じゃあ俺はお風呂入った後で寝るから」
「あ、今日は最初から一緒に入ってお背中」
「いや、それはいいからね」
なんかむくれてるが、勘弁して。
また夢で撃たれたくないんだよ。
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