第6話「改めて、ようこそ」

 目の前には青い海、振り返ると緑多き山。

 澄み渡る青空。


 ってここどこ、いつの間に……?


「兄さん、気をつけてね」

「ああ」


 え? あ……。

 

 兵隊さんの格好をした男性と、もんぺ姿の少女。

 あれってまさか?


「しかしよう、この戦争に何の意味があるんだろうなあ」

 え?


「お国の為、皆を守る為なのかも知れねえが、それは戦わずに出来ねえのかって思う時もあるよ」

「兄さん、そういう事は他で言わないでね」

「分かってるよ。お前に肩身の狭い思いさせたくねえしな」

「ん……」


 ヨゴロウさん、本当は戦争なんか行きたくなかったんだな。

 けど、アキコさんの為にか。


「心配すんな、俺は絶対死なねえよ。父さん母さんに代わってお前の花嫁姿見なきゃだしな。ほら、あいつなんかお似合いだと思うが」

「え、あれは無いわよ。だいたい家柄が釣り合わないわ」

「うちだって今は落ちぶれてるが元はそこそこの家だ。それに俺が手柄立てれば向こうも認めるだろな」

「だから無いってば!」

 

 アキコさん、顔真っ赤にしてるな。

 本当はその人好きなのかもな。

 あとこの時点でご両親はもう亡くなっているみたいだな。

 ほんと苦労されてたんだなあ。


 そう思っていると、

「そうだ。行く前にやり残したことがあったわ」

「何を?」

「それはなあ」

 ヨゴロウさんがこっちを向いたかと思ったら、近づいてきた……え?


「おい、よくもかわいいひ孫の裸見やがったな」

 ヨゴロウさんが俺を睨みながら言う。

「え? あ、あれ?」

「覚悟はいいか?」

 そう言ってどこからか出した歩兵銃を構えた。


「い、いやあれはわざとじゃないですよ! というかまだ生まれてないでしょ、この時は!」

「言いたい事はそれだけか?」

 ヨゴロウさんはそう言って引き金を引こうとした。

「ちょ、やめてください! てかアキコさん、お兄さん止めて!」

「兄さん、早くその変態撃って」

 アキコさんが無表情で俺を指して言った。

「だからわざとじゃないですってば!」

「じゃあな青年。ダン、ダン」

 ダーン、と銃声が鳴り響いた。




「……あれ?」

 そこは俺の部屋だった。

 窓の外を見るともう日が登っている。

 枕元に置いていたスマホで時間を見ると午前七時だった。


 しかしなんちゅう夢だ。そこまで怒らなくても。

 事故でこれなら手を出したらマジで呪い殺されそうだな。

 つか撃つ前に口で言うなよ。


 

 そう思いながら着替え、台所に行くとキクコちゃんは来ていなかった。

 きっと疲れてるんだろな。


 さてと、朝ごはん作るかな。

 スクランブルエッグなら食べられるかな?

 ご飯と味噌汁もまだ少しあるな。

 あとパックの野菜ジュースをテーブルに置いた。


「あ、おはようございますだべ」

「うん、おはよう」

 キクコちゃんが降りてきた。

 服は昨日と同じだった。やっぱそれしか持ってないのかな?


「んにゃ、朝ごはん……あたすがと思ったのに」

 キクコちゃんが食卓を見て言う。

「気にしないで。だって疲れてただろ」

「むう~」

 おお、そのふくれっ面可愛い。

「晩御飯はお願いね。さ、食べよう」

 

 食べながら今日やりたい事などを話し、

「ごちそうさまだべ。さてと、片付けして掃除と洗濯するべ」

「お願いします。あ、洗濯機の使い方教えるね」


 うちの洗濯機は風呂場の前に置いてある。

「へえ、これって葛籠みてえなもんかと思ってたべ。ほんとこんなので洗濯できるんだべか?」

 キクコちゃんがそれを見つめながら言う。

「そうだよ。そっちはどうしてるの?」

「川に行くかタライに水入れて洗濯板で洗ってるべさ。あとは水魔法で汚れ浮かせて落とすんだべ」

「魔法の方がよさげだけど、やっぱ使える人少ない?」

「んだ。だから大事なものをうっかり汚しちまった時にお金払ってやってもらうべ」

「そうなんだ。あ、キクコちゃんはできないの?」

「できるけんど、すぐ疲れて倒れちゃうべさ」

「うん、無理しないでね」


 早速自分の洗濯物を放り込み、洗剤を入れてタイマーをセットした。

 キクコちゃんの分は後でしてもらう事にした。

 俺のと一緒にってのは気が引けるし。


「これでよし。終わったら音が鳴って知らせてくれるよ」

「へええ、ほんとなんでもあるべなあ、この世界は」

 うん。けどそっちみたく魔法があったらいいなとも思うよ。




「あ、これは似たようなのあるべさ」

 部屋に戻り、掃除機を持ってきて見せたらそう言った。

「え、それって魔法の道具?」

「んだ。ひいじっちゃが昔こっちにいた時に見たらしくて、たぶんこんな造りだろうってお師匠様と一緒にこしらえたんだべ。材料も安いから普通の人も買えてみんな大喜びだったって聞いたべ」


 えっと、戦前に掃除機あったのかと思ってスマホでググってみたら、日本では1931年に発売されたけどやっぱ贅沢品だったみたいだ。

 ひいおじいさん、お金持ちの知り合いでもいたのかな。

 いやそれはともかく見ただけで構造わかったんかい、チート過ぎだろ。


 掃除も終わり、時計を見ると十時を過ぎていた。

「さてと、じゃあ出かけようか」

「んだ」



「ひゃあ……」

 キクコちゃんは外に出た途端、周りを見てポカンと口を開けた。


「ここがひいじっちゃの生まれた世界だべか」

「うん。改めて、ようこそ日本へってね」

「……んだ!」



 大通りまで出た時、

「ひゃああ、荷車が勝手に走ってるべさ」

 キクコちゃんが次々と走り去る自動車を見て声を上げ、

「あ、あれ綺麗な街灯だべな」

 信号機を見てそんな事を言い、

「そういえばこの道、石畳とは違うけんど?」

 アスファルトなんてそっちにはないか。


 しかしほんと新鮮な反応だなあ。

 いやもし俺がキクコちゃんの世界に行ったら同じような事するかもな。



 しばらく歩いて着いた場所は図書館。

 なんか手がかりが見つかるかもと思った。

 中に入ると、


「うわあ。本がいっぱいだべさ」

 辺りを見ながら言うキクコちゃん。

「そっちには図書館って無いの?」

「あるけんど入場料や貸出料が高いんだべ」

「なるほどね。こっちじゃ入るのも読んだり借りたりも無料だよ」

「そうなんだべか? うちじゃ貴重な本ばかりだから維持管理費もたくさんかかるし、税金だけじゃ無理だって陛下が言ってたべさ」

「そうなんだ。まあここにはそこまでのは無いはずだよ」


 その後、いくつかの本や資料を読んだが……。

「うーん、目ぼしいのは無いな……しょうがない、そろそろ昼だし出よう」

「んだ」


 昼食にと来たのは、チェーン店の牛丼屋。

 キクコちゃん、聞けば牛肉も好物らしいので食べさせてあげたかったんだ。

 じゃあ焼肉屋やステーキハウスに行けとか言われそうだけど、それはまた今度という事で。


「え、牛丼ってこっちにもあるべか?」

 キクコちゃんが目を丸くして、

「うん。あれ、そっちにもあるの? もしかしてひいおじいさんがとか?」

「んにゃ、それは別の人がだべ。お米が美味しく食べられるようになってから米料理も発展したって聞いたべさ」

「あ、なるほど」

 何かきっかけがあれば、だよな。


 その後、キクコちゃんは牛丼特盛を美味しそうにぺろりと平らげた。

 店の人も近くにいた人もキクコちゃんを見て驚きの表情となっていた。

 てか俺もたぶんそんな表情してただろうな。

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