第5話「別にいいべさ」
うちの風呂場と湯船は結構広い。
170cmの俺が足伸ばして寝ても充分ゆったりなくらいだし。
俺は体を洗ってシャワー浴びた後、その湯船に浸かった。
ああ、ほんといい気持ちだわ。
今日はキクコちゃんがいるから奮発していい入浴剤も入れたしな。
子供の頃、うちの風呂が友達何人かの家のと比べて広いと分かったんで、父さんになんでか聞いたら、母さんが大の温泉好きだったから家でもそんな気分になれるようにしたかったからだって。
……父さんが生きてる間には叶わなかったな。
できることなら、俺がいつかは……。
しかし聖地から着いたのがひいおじいさんが最後にいた場所じゃなくて、うちだったってなんだろな?
キクコちゃんのお師匠様曰く「勇者に縁のある場所に着くだろう」だそうだけど。
あ、もしかしてこの近所にいるのか?
それとも……そんな訳ないよな、俺がだなんて。
それは置いといて、しばらくはキクコちゃんと二人暮らしか。
うん、間違いがないように気をつけ、
「勇者様、もう体洗ったべか? まだならお背中流すべさ」
「ウワアアっ!?」
キクコちゃんが浴室に入ってきたって、おい!
「あれ、どうしたべさ?」
キクコちゃんが首を傾げて言う。
「ちょ、何で入ってくるんだよ!?」
俺は思わず立ち上がってたので、また湯船に浸かりながら言った。
見られてねえよな?
「え、さっき後で入るって言ったけんど?」
「俺が出た後にしろ! てか年頃の女の子が恥ずかしくないんか!?」
彼女は全裸でタオル巻いてないし隠してもいない。
ディフェンスに定評のある湯気のおかげで大事なところは見えてないが、二つの膨らみが意外に大きいというのは分かる。
ってそれでもダメだと思っていると、
「そりゃそこいらの男だと嫌だけんど、勇者様なら別にいいべさ」
キクコちゃんが臆面もなく言った、って。
「てかその勇者様はやめろ! 俺の名前は隼人!
そういやキクコちゃんに自分の名前を言ってなかったって思った時だった。
「ひゃあ~。あたすの苗字と一緒だべさ」
「は?」
「あたすのフルネームはモロボシキクコだべ」
キクコちゃんが自分を指して言った。
「へ、へえ。そりゃまた偶然だな……って、いいから出てってくれ!」
湯気さんもう少し頑張ってくれ。見えそうだ。
いやなんか湯気消えろという声が遠くから聞こえた気がするが、幻聴に違いない。
「え、もしかして隼人様って、女嫌いだべか?」
キクコちゃんが不安げに言ったが、
「様も要らん! てか嫌いじゃない!」
「よかったべ。あ、隼人さんでいいべか?」
「それでいいから出て、いや俺が出る!」
俺は前を隠して脱衣所に行き、体をろくに拭かないまま自分の部屋に駆け込んだ。
「しっかす隼人さん、おっとうのよりでけえべさあ」
この娘、しっかり見ていたようだった。
「ふう、やばかった……あ」
体を拭いてパジャマを着た後でふと思った。
キクコちゃんは着替え持ってるのか?
荷物らしきものは見なかったが。
いや魔法でパッと出せたりとかか?
うーん、まあ持ってたらそれでよしだ。
俺は客間に行き、押入れから布団を出して敷いた。
箪笥からは寝巻き浴衣と羽織を取り出す。
エアコンで部屋暖かくしておいてっと。
使い方はさっき教えたから分かるよな、たぶん。
聞いたけど、浴衣もひいおじいさんが広めていたようで村では暑い時期に着たりパジャマ代わりになってるそうだ。
ほんとラノベみたいな異世界無双(?)しまくりだな、ひいおじいさん。
そしてまた風呂場に行った。
脱衣所にはいないみたいだな、風呂の方も静かだけど出た気配はなかったし。
「キクコちゃん、まだいるー?」
一応呼びかけてみた。
すると、
なんだべー?
風呂から返事が聞こえた。まだ入ってたんだな。
「ねえ、着替え持ってる? 無いなら浴衣貸そうか?」
あ、使わせていただきますだべさ~。ありがどございまず~。
「うん、じゃあここに置いとくね……うわっ!?」
「ど、どうしたべさ!」
キクコちゃんが慌てて出て来た。
「ご、ごめん。それが目に入ったもんだから」
脱衣所の棚に置かれていたキクコちゃんの下着が……。
やはりでかくて白いブラと小さいぱんつってか、見えるように置くな!
「なんだそうだったべか。びっくりしたべさ」
「いやそこは怒るか恥ずかしがるか……ふぎゃあっ!」
やばい、湯気が無いからもろに見ちまった……。
「え、今度はなんだべさ!?」
キクコちゃんの焦る声が聞こえた。
「あ、いやなんでもない、じゃあおやすみ!」
俺はまた慌てて脱衣所を出て、部屋に戻った。
はあ、はあ……。
うう、女の子の裸、生で初めて見たよ。
やばい、あんなのまた見たらほんとに理性が……。
ってあの、わざとじゃないし何もしてないから祟らないでくださいね、ひいおじいさん。
俺は手を合わせて天井を見上げて祈った後、布団に潜った。
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