二十四、夜に響く

咆哮する声が聞こえました

愛を

と叫ぶ号哭が


さえずりに似ていました

歌うようでもありました

絶え間ない絶唱でした


小さな躰が見えました

黒い影に思えました

よくよく見れば青でした

青い光沢を帯びた漆黒とも言えました


細い足で立っていました

小枝にも似た脆い両脚です

眸は円らな黒真珠でした

瞬きを忘れた不乱の目でした


一度くらい声をかけてみようか

気の迷いが生じました


足音を忍ばせて驚かせぬよう近くへ寄り

可能な限りに穏やかに両手の平を差し伸べて

優しい声をかけてみようか

さすればきっと喜ばれるだろう

得られる愛の温もりに歓喜してくれることだろう

まったくの気の迷いです


咆哮に耳を傾け

視線をつとと据えたまま

しかし何気ないふうを装って

歩みを進めたりなぞしました


さようなら


呆気なく逃げてゆきました

元より手の届かぬところに居たものが

見えもしない遠くへ消えました

咆哮も遠ざかる


愛を

と叫ぶ号哭が

彼方へ向かって響きます

囀りのようでもありました

歌のようでもありました

絶え間ない叫びでありながら

嘆きのない声でした


純然たる希求の姿

それは青く光沢を帯びた

漆黒の衣に包まれていました

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