一番安いアイスクリーム

 身近な人や物にこそ言葉を荒立たせてしまうけれど、チェーンのスーパーマーケットで一番安いアイスクリームを買って、食べたらもう、どうでもよくなる。同じような出来事があってまた苛立ったとて、明治でも森永でもブルボンでもないパチスロの景品でしか見かけない甘ったるいチョコレートで、太刀打ちできる。その時必要なのは甘味ではなくて、多分、時間なのだ。


 何かを食べている間は、時間の無駄に思えるほど考えごとに向かない。本能的な場面では「本当は必要ではないもの」を排除してしまうのかもしれない。そうだと仮定すれば、考えられなくて時間の無駄に思えるくらいの苦悩こそ、不要だということになる。そもそも時間がネガティブへの対抗策の一つなら、無駄だと考えること自体、ナンセンスじゃないか。

 何十年何百年とかけてやっとできたシステムすら、動物的な本能の前では、「食べ物以外」と捉えられている、気が、する。仕事の休憩時間に次の作業について考えていても、咀嚼は止まっていないのだし。仕事<食事、せいぜい、仕事≦食事だと信じれば、やつれる可能性がきっと、多分、おそらく、多少減る。この理屈でいえば、誰かと食事をして、食べ始めた後料理が冷めるほど話し込んでしまうなら、その時間は必要だ。実際はどうであれ。


 いつもより疲れたならば、ほんの少し良いものを食べると満たされた気持ちになる。少なくとも、余計に疲れたという話は聞いたことがない。

 他より二十円高い抹茶アイスにするだけで贅沢をした気分になれるなら、「元がとれる」と買い物カゴに入れてしまえばいい。味の違いがろくにわからなくても。ハーゲンダッツのほうが好きなら、ショートケーキと大差ない値段だなんて忘れて買ってしまえばいいのだ。毎日早く明かりを消して眠れば、それだけで節約になる。ついでに睡眠不足も解消される。ならばたまの贅沢も、そこそこ前向きに許せるだろう。増えてしまった体重は憎むけれど。

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