『炎の天使』
ファンタジーによく出てくる架空の生物といえばなんでしょうか。やはりドラゴンや妖精などは定番ですね。その一方で天使というのは、それほど頻繁には出てこないかもしれません。
そんな中で、天使の存在を真正面から扱っているのが『炎の天使』です。主人公ヴォロスは堕天して人間になろうとします。なんと、ロック・シンガーを目指すんですね。ただ、やはり代償なしでは人間になれないようで、翼があるままだったのです。ロック・シンガーのギミックとしてはありですが、一人の人間として生きるには不自然です。彼をまさに天使のように見る人もいれば、悪魔だと罵る人も現れるのです。
私たちの世界に一つだけ嘘が気紛れ込んだら。これは現代ファンタジーを作るときの定番の枠組みと言えますが、「翼のあるロック・シンガー」というのは、なかなか独特な設定だと思います。舞台はロサンジェルスで、アメリカというところもこの作品のドライさにはぴったりだと感じます。ザンスシリーズでもそうなのですが、アメリカのファンタジーはヨーロッパのものとはまた違う、ある意味「歴史に縛られない」設定が現れやすいのかもしれません。
彼自身もそこにかかわる人々も、「自分探し」をしています。これも定番中の定番なわけですが、「翼のあるロック・シンガー」という不思議な存在がかなり独特な読みごたえを生み出しています。
日本語で紹介されているのはほぼ見たことがありませんが、私としてはお勧めの一冊です。
ナンシー・スプリンガー『炎の天使』(1997・梶元靖子訳)、ハヤカワ文庫FT
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