「奇談ナフスパラスト(女人像奇談)」

 「ザ・スニーカー」を購読していた、という話は前述しました。当時はファンタジー中心で、TRPGの影響を受けたものが多く、分かりやすいキャラクターと練りこんだ世界設定が基本だったように思います。ただ、そのような作品ばかりだったら、あまり長く購読しなかったかもしれません。海外ファンタジー、特にハヤカワFT的なものに憧れがあったので、「軽くはないもの」も欲しかったんですね。

 そんな私にとって、最も読みたくなる作家は花田一三六でした。重厚な語り口で、物語も決して軽くありませんでした。子供向けとは言えないファンタジーで、「こういうものを書きたい」と思わされました。「花田さんも存在できるなら、ライトノベル内で本格ファンタジー作家を目指すこともできるのではないか」と思ったのです。

 特に覚えている作品は、「奇談ナフスパラスト」です。突然思い立ち女の像を彫った石工が、その像にのめりこんでしまうのです。そして婚約者を捨て、像を選ぶのです。全編にわたって大人の情欲のようなものが描かれているのですが、それに関しては驚くほど記憶がありません。当時の私は、「女を彫り出し、魅了される」ということに妙に惹かれたのです。

 この物語には、きちんと宗教も出てきます。そのことが世界観にさらに深みをもたらします。途中から、結末も予想できてしまいます。それでも、とても美しい物語だと思ったのです。

 残念というかなんというか、花田さんのような作風はライトノベルの世界では珍しいままでした。ただ、その枠を超えて、ファンタジー作家として魅力的なのです。というわけで、花田一三六を読んでみましょう。



花田一三六「奇談ナフスパラスト」(『ザ・スニーカー 95年12月発売号』収録

『戦塵外史4「豪兵伝」』(2007)GA文庫 収録 「女人像奇談」に改題

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