第48話

12/20。夜斗は目が覚めてすぐに、瑠璃を見た

久しぶりに落ち着いてみることができたため、ほっと一息つく

そして凪に言われた言葉を思い出す



(彼女を作れというなら、俺が探偵であることに理解がないと困るよな)



瑠璃を撫でながらそんなことを考え、夜斗はベッドから降りる

そしてキッチンで、いつものように料理を始めた



数分後

匂いに釣られたのか、瑠璃が目を覚ましリビングに出て夜斗に声をかける



「おはよう、夜斗」


「おはようさん。飯はできてるぞ」


「今日のメニューは?」


「ただの卵焼きだ」


「甘い?」


「いや、ノーマルだ。朝飯だからな」



夜斗のこだわりによって、朝はしょっぱいもの、昼は甘いもの、夜は混合という構成になっている

瑠璃もそういったこだわりはあるため、特にクレームにもならない



「瑠璃、なんか鏡花とかからなんか聞いたか?」


「き、聞いてないね。何かあったの?」


「なんか俺の取り合いが起きてるらしくてさ」


「相変わらずの人気度だね」


「相変わらずなのか?」


「自覚がないのも相変わらずだね」



瑠璃はコーヒーを飲みながら笑う

夜斗はそんな瑠璃に目を向けて、すぐにそらした



「さぁて…。む、どうした凪」


『ようやく繋がったか。とはいえまだ8時だから仕方ないが…。少し散歩をする気はないか?』


「こんな朝から!?」


『少し話があるだけだ。何ならこのまま話しても構わない』


「わーったよ…。今どこだ?」


『社長の家の前の公園』


「連れ出す気まんまんじゃねぇか…。了解」



夜斗は瑠璃に声をかけてから外に出た

清々しいまでの寒気が夜斗の体にあった体温を奪い去る



「…もうこんな時期か。早いもんだ」



仕事に慣れた雪菜や唯利・真夜は、現在では重要な社員となっている

雪菜は緋月班のオペレーター、唯利は冬風班のオペレーターとして成長し、真夜は冬風班にて夜斗の補佐で腕を上げた

結果この2ヶ月で起きたテロ5件を、冬風班と緋月班のみで片付け、比較的安全な仕事を他の班に回すことができるまでになっている



「凪」


「…きたか。少し歩こう」



凪は目を閉じながら座っていたベンチから立ち上がり、数秒後に返答とともに目を開いた

そして夜斗がついてくるのを横目で確認する



「…社長。腹は決まったのか?」


「当然。というか俺がクリスマスまでに彼女できなかったらどうなる?」


「その場合、月宮妹が総合的に判断して例の5人から選出し、付き合わせる事になっている。仮に、社長がふられた場合もな」


「マジで俺の意見ガン無視なの逆に面白いな」


「それに関しては悪いと思ってる。それに…」


「それに?」


の場合、その方がいいだろう」


「……まぁな。俺は何事にも奥手すぎる」



凪が持ってきていた微糖缶コーヒーを開け、一気に流し込む夜斗

凪は少しずつ飲んでいたため、同じくらいのタイミングで飲み終わる



「夜斗。万が一、お前があの子らから選ばなかった場合、俺はあの中の誰かと婚約せざるを得ない。特に奏音と美羽の家は、俺達と友好関係のままでいたいと考え、お前に近しいものと婚約させるはずだ。あの中からならそういうことは起きないようにしてあるが」


「無茶振りがすごいな。それに…まぁ、明日お呼ばれしてるからな」


「その時に俺の人生まで確定される。まぁ気楽に選べばいい…いや、もう決まってるんだったか」


「ああ」



2人は腹違いの兄弟だ

本来なら、紗奈の弟に位置づくはずだった

夜美の父が病気によって男性不妊となったために、夜美の母が夜斗の父に懇願したのがはじまり

夜斗の母及び夜美の父同意の元、凪が産まれた

だからこそ2人は、それを知ったときから兄弟として互いを扱ってきた



「頼むぞ、兄ちゃん」


「おう。世話をかけたな、弟よ」



2人は拳を握りしめ、腕を交差させるようにぶつけ合わせた

ニッと笑い、互いに後ろを向いて歩き出す

ある種のルーティン。夜斗は凪を、凪は夜斗を兄弟として、本来の家族として認めたときから、決めていたもの。即ち



((うまくやれよ、兄弟))

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