第46話
目が覚めた夜斗は現状把握に数秒を要した
目の前には麻縄で縛られた紗奈が夜斗を見つめている
「紗奈」
「…お兄様。おはようございます、なんて言ってられませんね」
「離脱しようにも多分トランクルームだ。遮音も完璧、ってとこか」
外の音が聞こえないという事実から推測する
夜斗は靴のインナーソールに仕込んだナイフを出すため、紗奈に頼んだ
「…そんなとこにまで…」
「仕方ないだろこの仕事はよくあるんだこう言うの」
「事件ですねぇ…」
ため息を付きながら、紗奈が夜斗の縄を切る
そして夜斗もまた紗奈の縄を切ったがあまり状況は変わらない
2人のスマートフォンは奪われており、音が聞こえない以上外の様子を伺えない
「…一応脱出できるけど、高速走ってたらただ死ぬだけだしな」
「ですね…」
事実、この車は高速道路を西に走行していた
サービスエリアで停車するために車線を変更したのか、夜斗と紗奈は慣性に従い体が流される
「きゃっ!」
「ごふっ…。大丈夫、か…?」
「…ご褒美ですか?」
「悲鳴を上げろよ。いや上げろよってこともないけど」
夜斗は紗奈の胸から手を離した
流された衝撃で、紗奈の平均より少し大きい胸をもみしだいていたのだ
「紗奈、目は慣れたか?」
「どうにか暗順応してきました。そこにドアノブあります」
「離脱は可能だな。問題はどうやって無力化するか…」
夜斗は手持ちの武器を確認する
元々そこまで仕込んでいなかったため、あるのはインナーソールのナイフとベルトバックルに仕込んだナイフ、そして念のために装備しておいた指輪型の照準ジャミング装置だ
現代の銃は全て、電子照準によりほぼ無限に倍率をあげられるスコープがあったり、トリガーロックがスマートフォンと連携している
ジャミングすれば、少しは邪魔になるのだ
「止まった…?」
「コンビニとかでしょうか?開けられたらまずいです」
「そのときはもう拘束するしかない」
謎の衝撃が数回車に加わったあと、トランクルームのドアが開けられる
と同時に、夜斗はあけた人物にナイフを突き刺す
「あぶな!?何すんだ社長!」
「へ?な、凪…?」
「久しぶりだな。こちら夜風班凪、被害者確保。犯人は別車両にて西方面に逃走。霊桜、桜坂は自衛隊と連携して確保を。オペレーター聞こえるな?これから社長にかわる」
夜斗は受け取ったスマホを眺め、耳に当てる
「俺だ」
『こちら唯利。ちゃんと生きてたね』
「状況は?」
『誘拐犯に対して、自衛隊と警視庁特別強襲部隊、夏目探偵社合同チームが派遣されて確保のために向かってるとこ。高速道路は閉鎖して、自衛隊がバリケード組んでる』
「はい?厳戒態勢すぎん?」
『まあ、うちの社長様は結構人気ってこと。颯さんだっけ?かわるよ』
『やぁ、夜斗君。ご機嫌はいかがかな?』
「すこぶる悪いっすよ…。なんで颯さんが?」
『警察の代表としてきてるんだよ。自衛隊の総指揮もきてる』
『はじめまして、冬風夜斗。自衛隊総指揮官の東雲サトシだ。といっても、本当の意味でははじめましてではないんだが』
「え…?美羽の親父!?」
『サプライズだ。犯人は捕まえた。夏目探偵社に引き渡すことで話はついている』
美羽の父親が滅多に帰ってこないのは知っていた夜斗だったが、それが自衛隊総指揮官だとは知らなかった
ましてや、今ここにいるなんて想像打にしなかったのだ
「なん…で…?」
『美羽から連絡を受けた。美羽は夏目探偵社副社長から。副社長は颯から連絡を受け、助けを求めたに過ぎない』
『僕が求めたみたいに言わないでくれ…。ともかく、夜斗君。早いとこ戻ってくるといい。自衛隊の中に君に会いたいという人もいることだしね』
夜斗は首を傾げながら通信を切った
そして凪に端末を返し、到着した夜暮から自分の端末を受け取る
「伝えてやれ。社長の無事を。夜斗の帰還を」
「誰得だよそれ。帰ったら言うさ」
「心配で昼飯が喉を通らなかったり卒倒したりしてんだぞ社員」
「過保護な母親か。ったく、こちら冬風夜斗。皆聞こえてるな?」
放送回線を利用して事務所全体に呼びかける夜斗
なぜかはわからないが、事務所の中歓声が響くのを感じていた
「誘拐されたくらいで慌てんな。お前らが優秀なのは俺がよく知ってる。これからも気ままに誘拐されるから、ぜひ助けてくれ。以上だ」
『こちら唯利。なに?今の挨拶』
「夜暮が生存報告しろって言うから」
回線を閉じた瞬間に繋がった無線に応える夜斗
相手は唯利。実は今回の救出作戦を考案したのは唯利だ
『まぁいいけど。概要はあとで説明してあげるから、早めに帰ってきて。夕飯までに』
「おかんか。まぁいい、わかった」
夜斗は通信を切り、犯人確保から戻った霊桜班と桜坂班、そして夜斗をトランクから出した夜風班の面々を眺めてため息をついた
「礼に飲み連れて行ってやるよ…仕方ねぇ」
歓声の中で、紗奈は僅かながら心の奥底にある感情に首を傾げた
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