第45話
夜斗は屋敷の中で着替えていた
いつものスーツには、機動に耐える素材が使われている
タキシードよりかは動けるのだ
「さぁてどう攻略するか…」
「楽しんでくれているみたいだね、夜斗君」
「颯さん…。あんたにだけはまともな死なせ方はしませんよ」
「おや、最後を看取るということは奏音を娶る覚悟ができたのかな?それは僥倖だね」
「何言ってもそっちに引っ張るなこの人!」
「そんなことより、君気づいていないのかな?抱きついている人を見たらどうかな」
「へ?」
夜斗は自分の腰に回された腕に目を向け、その感触から人を識別した
「真夜…」
「夜斗は、渡さない…!」
「ははは、頑張ってくれたまえー」
颯が立ち去ったあと、夜斗は真夜に勝つための方法を講じた
現在のところ、真夜に勝つことができるのは黒鉄と夜斗のみ。それも武装ありきの闘い方だ
つまり今は、勝てない
「真夜、落ち着いて聞いてくれ?颯さんの言うことを聞く必要はないんだ、お前のアピールはよくわかってる。そう、落ち着いて手を離すんだ」
「だめ。夜斗、逃げる」
「なんでわかるんだ…」
真夜は夜斗の行動を読んでいるようだ
しかしだからといって夜斗が逃げないわけにもいかない
「お待たせいたしましたお兄様!」
「ようやく来たな、紗奈!」
黒鉄と紗奈が夜斗に駆け寄り、真夜を引き剥がす
そう、夜斗が呼んだのはこの2人だ
「全く粋な計らいですね」
「そうだな…つかれた…」
「どうするんですか?」
「女の子とキスをしろって話だからな…」
夜斗は紗奈を振り返った
と同時に、紗奈は夜斗の唇を奪った
「…!」
「私も、女の子ですから。けど、妹はファーストキスにはノーカン、です」
夜斗は笑う紗奈に向けてため息をついた
「ゴーゴーゴー!!」
「なんだ君たちは!?」
颯は深夜、寝込みを3人の男に襲撃された
手に持っているのは銃だ
「終わりだ、おっさん」
「黒鉄君だねその声!僕になんの恨みが!?」
「なんのことだかわからんな!」
男は銃の引き金を引いた
すると銃からは鼓膜を突き破るかのような音が響き、弾丸が颯を貫…かなかった
「モデルガンだ。引っかかったな、九条颯」
「いやもう声からだれかわかってたよ?言い訳はよくないな。で、なんのようかな?見ての通り寝ていたんだけど」
「なに、主に酔狂な罠を仕掛けた礼と、事件のお知らせだ。主が誘拐された」
「…話を聞こうじゃないか、座るといい」
黒鉄と草薙、夜暮の3人は覆面を外し、応接用のソファーにどかっと腰を下ろす
「夜斗が誘拐されたのはパーティから帰る途中、全員を送り届けて自宅に歩く最中だ。妹の紗奈ちゃんも誘拐され、居場所の特定に至ってない」
「主の携帯は県警に届けられていた。拾得者によれば、高速道路のパーキングエリアにおちてたらしい」
「それは…不自然だね」
「俺もそう思う。パーキングエリアで落ちてたなら、とりあえずパーキングエリアの店員か管理会社に連絡するだろ。わざわざ交番に主の携帯を届ける必要性が理解できねぇんだ」
黒鉄と草薙はそういって、それぞれパソコンを取り出した
表示された映像は、そのパーキングエリアの動画だ
見れば、夜斗がなかば引きずられるように車から別の車に移されている
「これは…」
「組織的犯行だ。今、実働冬風班の真夜と実働夜風班2名が対テロリスト用超重装備で出動し、オペレーター2名…雪音と桜音を緊急体制に変更して稼働している。新人たちも、社長を助けるためにそれぞれが動いているな」
「動くって…虐待で捕まったはずだよね?親は」
「親は、な。雪菜の親父の兄貴は、自衛隊総指揮官だ。さっき静岡県自衛隊全部隊が出動、神奈川県陸上自衛隊及び航空自衛隊が出動した」
「なるほどね…。つまり、警察が動けば大義名分ができるわけだ」
颯はそういって足を組んで、少し思考した
「私だ。夜間にすまないね、全員出動できるかな?明日の勤務は警視庁から派遣するから。うん、頼んだよ」
「九条颯…」
「義理もあるし、奏音を娶ってもらうためには恩を売るのも悪くないからね」
そういって九条颯はにっこり笑い、黒鉄と草薙はようやく安堵した
と同時に気を引き締める。夜暮もまた、兄に連絡を取り出動体制に移行した
国対誘拐犯。全面戦争の火蓋が切って落とされた瞬間である
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