第44話

颯が舞台に立ち、挨拶する

いるのは政界の人間やマスコミ、そして月宮兄妹

総勢100名



(なんだこれ…?なんか、わざと人を集めたみたいな…)


『こんばんは。今宵は九条家のパーティにお越しいただきありがとうございます』


「ああしてればまともなのにな…」


「確かにね。急に招待しといて図々しいとは思うけど」


「まぁな」



夜斗は唯利の隣にいた

夜斗の逆側には瑠璃、後ろには真夜がいる

8人はだいたい夜斗の周りにいる。そして、ドレスだ



『今日の主役は、夏目探偵社社長。冬風夜斗です』


「…やりやがったなあのひと…!」



ここでようやく、夜斗は企みを知った

あえて5人と奏音を戦わせるのだと。それと同時に、公表することで夜斗の逃げ道を塞いだのだ



『夜斗君、そして招待した探偵社及び瑠璃さん。来てくれるかな?』


(最悪だ…)



スポットライトで照らされては言い逃れはできない

謎の拍手に包まれながら、夜斗と8人は壇上に上がった

ちなみに真夜ははじめからここまで夜斗にしがみついたままだ

いわく、人見知りが暴走する…らしい



「あとで覚えておいてくださいね、九条颯」


「なんとでも言うといいさ」



颯は笑いながら言う



『さて、この方々はただ一人、夜斗君を目的とする女性たち。ここに私の娘、奏音を加えた9人が取り合いをするわけです』


「聞いてないんですけどー?」


「言われてねぇだろうな」


「こう、てい…」


「なんとなく想像してた」



唯利の抗議に、真夜と鏡花が同意の声をあげる

これを想定していたのは、瑠璃・夜架・雪菜の3人のみ

それ以外は苦言を呈する



「揃ってるわね」



奏音が現れ、夜斗の前に立つ



「父の思いつきに付き合わせたことをお詫びするわ。けど、こうでもしないと夜斗が私に思いを向けてくれないから、仕方ないわね」


「何言ってるの?副社長とはいえ消すよ?」


「あら、貴女は対象外よ?特に夜斗を好きでもなさそうだし」



あえて喧嘩口調でいう奏音。口角があがり、完全にやる気だ



「…念の為、呼んで正解だな」



夜斗は不敵な笑みを浮かべた

瑠璃にはその笑みが酷く歪んで見え、恐怖さえ感じたのだ



「勝負といっても、何するかによりますよね。私、生憎と武器ありませんし…。こんなことならスタンロッドだけでも持っとけばよかった」


「お前に支給してないだろオペレーター」


「それもそうなんですけどね」



美羽はこのあとがわかっているため、夜斗と同じような笑みを浮かべる



「単純なことよ。誰がさきに夜斗のファーストキスを奪えるか、ね。夜斗は逃げて、好きな子がいれば受け入れればいいわ。そしてその様子はこの会場に中継されるの」


「……。仕方がない、やってやるか」



夜斗はそう言うと同時に、ドアに駆け寄り蹴り開けた

そして飛び出し、走り出す



「さて、どうやって逃げるかな」



夜斗は走り、気配を感じて跳ぶ

そして木に掴まり登り、気配を殺す



「どこかなぁ。探偵本職じゃないから中々難易度高いんだよねー」


「私も実働ではないので、捜索技術はありませんね…。夜斗先輩なら木の上とかにいそうですけど」


(勘がよすぎる…!)



夜斗は結構本気で気配を殺した

澪と美羽が行動を共にしているのは想定外だが、2人は自分たちでも言うように探す技術はない



(恋愛しろ、なんて無茶言うぜ颯さんよ)


「見つけたわ!」「見つけましたわ」


「げ、夜架&奏音!」



下から見上げる奏音と、上から見下ろす夜架

夜斗は懐から銃のようなものを取り出し、屋敷の壁に向けて撃った



(フックショット改二!)



使い捨てガスボンベを使い射出されたアンカーが壁に突き刺さり、使い捨てガスボンベの残量を使ってワイヤーを巻き取ることにより空中機動を可能とした、試作型…の改良版

完成には至っていないため、夜斗以外が持つことはない



「残念ですが、わたくしは持っていますわ」


「なぜぇ!?」



背後から同じようにフックショットで襲いかかってきたのは夜架

手には少し大型のフックショットが握られている



「ってそれフックショット試作型だな!?なんで持ってんだよ!」


「開発部にいただきましたわ」


「覚えてろ開発部!査定下げてやるからな!」



夜斗は屋根の上でそんなことを叫んだ

下から見上げる7人プラス奏音が、悔しそうに夜架を睨む

しかし夜斗は、夜架限定で使える対処法を知っている



「…やるか」



夜斗は迫りくる夜架にしがみつき、体をひねって2人で倒れ込んだ

そして夜架を下にして覆いかぶさる



「襲いかかってきたのはお前の方だったな」


「はぅ…。そ、その…積極的になられてしまうと…こ、困りますわ!」



夜架はそういって顔を赤らめて目を閉じる

瞬間、夜斗はボンベを入れ替えたフックショットを撃つ

積極的な夜架だが、逆に積極的になられると怖じ気づく

それを知っていた夜斗の勝利だ。ちなみにああなってしまうと夜架はしばらく動けない



「…到着まで5分…どうにか、間に合え…!」



夜斗は呼んだ人たちを待ち、逃げ耐える覚悟を決めた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る