第42話

木曜日。出社した夜斗は、新入社員3人に目を向けた

至って普通に見える3人。しかし夜斗は、1人に歩み寄った

それは、唯利だ



「唯利。あまり体調が優れないようだな」


「…そう見える?」


「見える」


「…まぁ、少し悪い…。そういう日だから」


「そうか。あまり無理はするな。悪化したら早退しろ」


「はーい…」



夜斗は唯利から目を離し、口論する黒鉄と草薙に目を向けた

内容は非常にくだらないもので、目玉焼きに塩をかけるかソースをかけるか、というものだ

夜斗にとってはあくまで「食えればいい」のため、全く興味がない



「…まぁいい。桜音、唯利を気にしてやってくれ。あと真夜、行くぞ」


「了解。オペレーター業務を継続しつつ、管理する」


「…?」


「仕事だ。依頼が1つあって、簡単なものだから息抜きになるだろ」


「仕事、息抜きには…ならない…」


「まぁそういうな」



文句を言いながらも真夜はゆっくり駐車場に向かっていく

夜斗は社用車の鍵をキーボックスから掴み、歩き出した



「今日の依頼はただの浮気調査だ。といっても、県内だしすぐそこだから特にやることはない。ただ女性を追いかけて証拠を掴み、旦那さんに渡すだけでいい」


「…単純。急に、かんたん…」


「今までがおかしいだけだ。監禁やら強盗なんてそう何度も起きねぇよ」



特大のフラグを立てて、夜斗は車を発進させた



「終了だ。おつかれ」


「ん…おつ、かれ」


『お疲れ様です。オペレーションR、終了します』



雪音が通信からログアウトしたと同時に、奏音が通信に割り込んだ



『夜斗、今いいかしら』


「おう?」


『父が会いたい…って。明日』


「それをこの回線で言うのか…」


『大丈夫よ。仕事関係だから』


「娘と結婚しろとかだったら事件性高すぎるわ」



切れた通信端末を睨み、夜斗はため息をついた

明日の仕事は一日非番の霊斗に押し付けることを決め、予定を組み直す



「仕事…?」


「ああ。明後日は瑠璃とデートだし…なんだこれは。今週も激スケジュールだな」


「デート…?」


「おう」


「デートって、なに…?」


「まじか…」



夜斗は思っていたよりも常識にとらわれない真夜に、デートについて説明した

結果、あまり理解されなかったようだ



「これも、デート…?」


「これは仕事だ」


仕事デート…」


「意地でもデートにしたがるなおい」



そしてそんな二人を見つめる人影があった

瑠璃色混じりの黒髪を持つ少女、瑠璃である



(夜斗…と、監禁していた男の仲間…?なんで…ってそういえば雇ったって言ってたけど…)



夜斗と真夜が話しているのは見えていた。しかしその真意は見えない



(デート…?いや仕事かな。うんそういうことにしよう)



瑠璃はそう決めつけて(といっても事実なのだが)歩き出した

夜斗はそんな瑠璃に気づくことなく車に乗り込んだ

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