第38話

事務所にて挨拶をする夜斗



「本社の社長してる冬風夜斗だ。今日は視察としてきた。まぁ速攻で3人のバカを解雇することになったが、あの程度の人員なら大した痛手でもない。他にセクハラ及びパワハラがあるなら歩いてる俺を捕まえて話してくれ」


「…真夜。本社直属、実働冬風班…。私に、いえば…私から、夜斗に話す」


「唯利です。本社直属実働冬風班オペレーター候補してます」


「あとなんか言うことあったっけか、時雨」


「特にはない」


「そうか…。ああ、1つあるわ。今日夕方、支社長と俺と真夜、唯利が飲みに行くから、来る度胸がある奴はこい。昇進目当てと判断したら帰らせるから、それ以外のやつな」



夜斗は支社長席の隣にある椅子に座った

と同時に、支社内に警報が鳴り響く



「報告!」


「岩手県警から緊急通信!繋ぎます!」


『こちら岩手県警交通警ら隊!夏目探偵社、応答願います!』


「夏目探偵社東北支社時雨だ!状況を!」


『岩手銀行5店舗同時テロ発生!強襲部隊が応戦中!』


「了解した、応援を送るから耐えていろ!」



時雨は社員に向けて指示を出していく

それに従い、女性社員をメインに組まれた実働班が出動する



「事件か」


「事件だな」


「でてやろうか?ちょうどよくパートナーもいる」


「力で制圧するなよ?」


「俺を他の本社実働と一緒にすんな」



夜斗は立ち上がり、真夜に声をかけた

2人はそれぞれ拳銃を使うガンナー。時雨は元々日本刀を扱うアタッカーだった

支社長は原則出撃できず、社長判断で可能となる

今回は許可するためのPCを置いてきたために夜斗が出ることにしたのだ



「とりあえず…先発がどこ行ったかだな。余った1つに行く」


「第3支店が余っている。最も大きい支店で、裏口が多い。まぁそれは敵側も把握しているだろうから、相応の手段が要る」


「了解。真夜」


「しゅつ、げき…!」



2人は車で第三支店に到着した

冬風班はこのあたりでは知られていないため、警官が声をかけてくる



「だめだめ、一般人は立ち入り禁止だよ!」


「夏目探偵社本社直属冬風班、冬風夜斗だ」


「同じく、真夜」


「な、夏目さんでしたか…。申し訳ありません無知なもので…」


「いや構わん。普段は本社直属はこないからな。状況は?」


「アサルトライフルで武装した強盗団4名が立て籠もっています。裏口にはセンサー爆弾があると犯人たちが言っていて、確証がないため突撃もできず…」


「そらそうだわな。そーだなぁ…」



その場にいる警官を見回し、人数と各隊の構成を確認する

武装は大半がハンドガン。各隊にアサルトライフルが1人

全体で1人スナイパーライフル。そしてスタンバトンが十名



「スタンバトンは無理だな。下がらせたほうがいい。盾持ちハンドガンは銀行を囲むように配置して、アサルトライフルだけで部隊を組む。ハンドガンは援護…というより取り押さえ担当」


「え…?どこから突撃を…?」


「裏口と正面。真夜」


「りょ」



真夜は警官の案内で裏口のドア前に移動した

そして手のひらを扉にあて、目を閉じる



「何してるんです?」


「静かに」



夜斗の声に、不思議そうな顔で黙る警官

真夜が目を開け、夜斗を見た



「だい、じょーぶ。センサー、あるけど…つながってるのは、警報だけ」


「上出来だ。3階建てで2階より上はシャッター降りてるし、逆にこっちが爆破しても良かったけど手間が省けた」



夜斗はそういって真夜を撫で、警官を見た

やれ、と言わんばかりの目線だ



「か、各隊集合!」



警官は全員を集め、それぞれに指示を送る

そして各人が配置につき、夜斗と真夜は正面で銃をコッキングした



「真夜」


「…?」


「殺すな。生きたまま捕獲する。人質に被害が出そうなら肩を撃て」


「りょ。もう、殺さない」


『こちら唯利。聞こえてる?』


「唯利か。どうした?」


『館内の監視カメラをジャックしたし、警報も切ったからいつでもいける。ついでに防火シャッターの制御も奪ったから、その気になれば正面と階段、エレベーターを塞げる』


「まじか。あんがとさん」


『センサーの反応を見た感じ、犯人は自決用の手榴弾を持ってる。気をつけて』


「…どうにかする」



夜斗は通信を切り、呼吸を整えた

真夜にハンドサインを送り、正面入口のドアを蹴り開けた



「手を上げろ。以上だ」


「正面から!?」


「てーこーしたら、撃つ」



真夜が両手で、初めて持つかのような仕草で銃を構える

実際には片手で撃てるのだが、あえてそうしているのだ



「お、女を抑えろ!」



3人が真夜に向けて走り出す

残りの1人は近くの女性に手を出そうとした



「…うつ、せみ…?」



真夜は、男が女性に触れるより早く男の頭部を銃のグリップで殴っていた

崩れ落ちる男を避けて、真夜が他の3人のうち1人に銃を向ける



(あれは、空蝉…?霊桜の技術だぞ…!?まさか俺が1度見せただけで真似た…?)



夜斗は溢れ出る感情から笑みを隠せない

犯人たちはそれを狂気と感じたのだろう。ちょうど夜斗と真夜の真ん中で背中を合わせて、崩れるように座り込む



「…!突撃しろ!」



夜斗の声で警官が流れ込み、犯人たちに手錠をかけた

手際よく人質の口や手、足につけられたガムテープを外していく



(流石にもう一人…みたいなことはないよな)



夜斗は周囲を警戒し、隠れられそうな場所を探した

しかしそれらしき影も、人がいた痕跡もない



(ただわかるのは、これが組織的犯行であること…だな。アサルトライフルなんて普通には手に入らない。うちでも霊斗しか持ってないのに)



ダークウェブのことを思い出したが、すぐに頭を振った

ダークウェブとは、通常のブラウザからは見ることができないインターネットの第2層にあたるもの

しかしダークウェブ及び最下層のディープウェブが実質閉鎖されてから丸2年

閲覧するためには、パソコンやスマートフォンのOSを1から作り出す他に方法はない



「唯利、制圧完了だ。時雨に伝えてくれ」


『了解。支社長、終わったみたいです』


『夜斗、そのまま聞いてほしい。他の支店も制圧完了したが、どうやら本命は本社金庫だったようだ。第3支店の正面入口から出て右に1キロの場所にある。行けるか?』


「いける。規模は?」


『十五人。全員アサルトだ』


「おうふ…。了解、すぐ向かう」


『頼んだぞ。他の4班も最大20分で合流できる。オーバー』



通信が切れ、夜斗は警察の代表…先程の警官に声をかけた

時雨から聞いたことをそのまま話し、その警官がすぐに無線で本部に確認を取る



「確認できました。すぐに向かいますか?」


「そのつもりだ。ただ、先程のような強襲制圧は難しい」


「十五人ですしね…。どうします?」


「なぁに。そろそろ到着する頃合いだ」



言うと同時に、夜斗の背後に4台の車が停車した

SUVやセダン、ワゴンなど車種は様々

降りてきたのは…



「遅いぞ黒鉄、久遠、凪、霊斗」


「無茶言うな。これでも緊急走行できたんだぞ」


「まーったく人使い荒いよね社長は…」


「……」


「制圧は任せろバリバリー」



降りてきたのは霊桜班・桜坂班・夜風班・緋月班の面々

本社直属実働班の最大戦力たちだ

といっても本社が無防備かと言われるとそうではない

黒淵班は残してある上、他にも優秀な強襲部隊と呼ばれる者たちが控えている



「さて、行くぞ」


「「「「おう!」」」」



夜斗と真夜を含めた十人は、それぞれの車に乗り込んだ

そして赤色灯を点灯・回転させ、サイレンを鳴らして走行を開始した

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