第36話

その日の夜


「よっしゃ飲めやぁぁ!」


「「「「いえーい!!」」」」



犯人逮捕に尽力した霊斗・桜坂・黒淵・霊桜と、雪音・桜音・雪菜、そして奏音と夜斗と真夜、さらに美羽は飲み屋に来ていた

ほぼ貸切の店内で、夜斗の奢りで少女・真夜・美羽の歓迎会が開かれていた


先の誕生日会ばりに賑やかな14人のうち実働班と霊斗は初っ端からどんどん飲んでいく



「社員3人増えるなんて大盛況じゃねぇか主!」


「ここ最近そういう依頼が多かったからな」


「主様って何故か新卒募集しませんよね」


「まぁ新卒で来るって人が少ないし、そもそもどこの学校に出すねんって話」



探偵社と言いつつ、実際は警察よりも危険で死と隣り合わせになる職場だ

そんなところに新卒で入ろうというものなどそういない



(いや、1人だけいたな。東北支社長がそうだったか)



強気で小柄な少女を思い出し、笑みを浮かべる夜斗だった




翌日。今度こそ視察に到着した夜斗と真夜

支社長室で彼女を待つこと5分



「遅かったな、夜斗。1日遅れだ」


時雨しぐれ。すまんな、昨日は急用があった」


「みなまで言うな。共有回線で紗奈から話を聞いた。随分と手が早いようで安心したよ、夜斗」



社長にも物怖じせずにタメ口で話す彼女は、夜斗の1つ年下で、新卒入社した敏腕支社長だ

九州支社長とは異なり、私欲がない。いや、1つだけしかない



「どうなんだ、東北は」


「ふむ…まずまずといったところだな、売上に関しては。とはいえ、殆どが雪かきやストーカー対応だから、夜斗ほど戦闘はない」


「そらそうだろ…。静岡だけにしてくれそんな非常識」


「それと…その女は?」


「警察に護送されていた唯利ゆいりと、俺の幼馴染を襲撃した真夜だ」


「「よろしく」」


「よろしく。夜斗は本当に手出しが早いな。私には触れもしないというのに」


「おうこいつらにも特に触れてねぇぞ」


「…?優しく、してくれた…」


「(誘拐されたの)初めてだったんだけど…?」


「あらぬ誤解を招くからやめろ」



時雨は額に手を当ててため息をついた

そんな時雨の服装は白のノースリーブワンピースだ

東北支社に服装の規定はない。というより、服装規定があるのは九州支社だけだ

それもあの支社長の趣味で女性のみ。セクハラと言われても無理はない



「あの支社長はクビになって当然だ。私も言い寄られたことがある。とはいえ、社長とのラインがあるから何もしてきてないがな」


「あいつは女なら誰でもいいんだよ」



夜斗と時雨は同時にため息をついた

その空気を払拭するように、夜斗は社内を見て回りたいと伝えた



「構わぬが、社員には夜斗が来ると伝えていないぞ」


「都合がいいな。俺の女装用の服出してくれ」


「またか…。女装である必要があるのか?」


「セクハラの実態もわかるだろ。真夜と唯利がやると殺しかねない」


「なるほどな。早急に手配しよう」



時雨は指を鳴らした

秘書が持ってきたアタッシュケースに入っていたのは、女性服とメイク道具、そしてヴィッグだ

ヴィッグも女性服も、基本的に毎回違うものを用意させる徹底ぶりだ



「さて、お着替えだな」



夜斗は隣の会議室に入り、着替えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る