第35話

『奏音よ。夜斗、真夜ちゃん聞こえてる?』


「真夜、頼む」


「ん。聞こえてる」


『犯人補足したわ。東名高速道路厚木IC付近東に走行中、行ける?』


「ん…。ちょうど、神奈川県に入った…ところ」


「IC降りるか。ここは…伊勢原ICだな」



夜斗は左車線に移動し、ICを降りた

そしてそのままの流れで東名高速道路に乗り、東に向かう



「応戦してたんじゃ…?」


『逃したのよ、応戦部隊が。桜坂たちがついたときにはもう逃げられてて、それぞれが西・北・東を捜索してたら、Bシステムで補足できたのよ』


「…ほろ、ぼす」


「滅ぼすな滅ぼすな。戦闘不能にするまでが限度だ。奏音、距離は?」


『あと数秒で見えるはずよ。200メートル先、時速140キロで走行中』


「とりあえず1回赤色灯止めて、スピード違反の疑いで停める。応援は期待していいのか?」


『私と緋月が5分で着くわ』


「了解した」



夜斗はレバーを押し込ませて赤色灯を格納した

そしてわざと追い抜き、追い越させる

直後、またレバーを操作させて赤色灯を出し、サイレンを鳴らして緊急走行を開始する



「えー、黒のバン。路肩に停車しなさい。繰り返す、黒のバン路肩に停車しなさい」



意外にも素直に停まった車の目の前に夜斗の車を停め、運転者に近づく



「すまないねぇ、スピードがかなり速かったから停めさせてもらったよ。免許証あるかな?」


「……」



素直に免許証を夜斗に差し出す運転者

発進しないように、真夜がこっそり車止めを4輪に設置する



「うーん…ちょっと荷物を見せてもらってもいいかな?」


「それは…」


「一応伝えとくけど、路上取締は令状いらないし強制執行も可能だよ」


「……。なら、サービスエリアで…」


「ともいかないんだ。逃げられないよう、その場でやらざるを得ない」



夜斗は真夜に発煙筒をつけるように伝えた

万が一にも、頭のおかしい者が路肩走行をして衝突しては困るからだ

路肩を歩いて、真夜は故障表示をかなり後方に設置して戻ってくる



「……このスーツケース、かなり大きいね。人が入れそうだ」


「旅行で…。3人分なもんで…」



友人と思われる2人が運転者を振り返る

後部ドアを開けて、夜斗は荷物を確かめた

真夜は上着の裏ポケットに入れた銃を握り、いつでも撃てる体勢を整える



「夜斗、待たせたな」


「遅い。早くしろ」


「オーケーオーケー。全員大人しく手を上げろ」



到着した霊斗と奏音は、車から降りるなりすぐに銃を構えた

装填されているものは実弾ではなくゴム弾だ。しかしそれでもかなり痛い



「お、俺たちが何をしたって言うんですか」


「とぼけんなって。俺は夏目探偵社緋月班の霊斗っていうんだよろしくな。お前らが殺した奴の兄貴だって言えばわかるか?」



霊斗は怨嗟の目を向けた

男たちが驚いた顔をすると同時に、動き出した

スーツケースに持っていた銃を向けようとしたのだ

しかし



「警告、した」



真夜のよる高速射撃を頭部に受け、卒倒する

脳震盪を起こすことで戦闘不能にするのがゴム弾の使い方だ。それを躊躇いなく使ってみせた真夜に、軽い戦慄を覚える霊斗と奏音

夜斗はそれがわかっていたかのように真夜を撫でた



「霊斗、犯人の車を運転して事務所に向かえ。奏音は社用車を運転して戻るように。霊斗はこいつらを乗せてけよ?」


「なぁにがかなしくて男乗っけてドライブしにゃならんのだ…」



文句を言いながらも霊斗は手錠と麻縄を使って3人を手際よく拘束する

麻縄と手錠の上からガムテープをぐるぐる巻にしたため、どちらが誘拐犯なのかわからなくなっていた

足を拘束し、口の中に毒を仕込んでいては困るため猿轡を噛ませる



「スーツケース開けてやるか」



夜斗がスーツケースを開けると、中にいた少女は飛び出して抱きついた



「…怖かった」


「にしては随分冷静だな」


「来るのはわかってた。焦るまでもない。早く連れてってよ、新しい家に」


「へいへい。にしてもこのスーツケースデカいな…。長辺で1メートル以上あんぞ。厚みも600ミリ以上、短辺でさえ900ミリくらいか…?」


「これ以上は危険だ、夜斗。早く退避しないと二次災害が起きる」


「それもそうだな。総員撤退」



それぞれがそれぞれの車に乗り込み、発進する3台の車

少女は夜斗の車に当たり前のように乗り込んだ



(まぁいいけど…。っと、無線無線…)



「こちら冬風。颯さん」


『おや、夜斗君。終わったかな?』


「当たり前のように…。犯人は確保して輸送中です。被害者も私の車で事務所に向かいます」


『それはよかった。警察の厳戒態勢を解除させるよ』



数分後に鳴った無線は、捜査終了を伝えるものだった

それを確認して、夜斗はまた颯に話しかける



「一応こっちで留置しますけど、公務執行妨害及び殺人があるんでそっちに引き渡します。結構暴れてるらしいんで、5人は送ってほしい」


『わかった。屈強な筋肉人間を送るよ』


「背に腹はかえられませんね…。お待ちしてます」



無線を切り、後部座席で少女を寝かしつけた真夜が夜斗に声をかける



「…どう?」


「判断が早いのはいいことだ。撃ち込む位置も悪くない。即戦力だな」


「…そう。まだ、夜斗とやる」


「美羽の教育が終わるまでは俺と一緒だ。その後はお前と美羽で組んで、雪菜のオペレーションで動くことになる」



各班1人つくオペレーターは、基本同期か近しい人間だ

桜坂にはがついているし、霊桜には桜華影月という男が

黒淵には影月の妹の凛がついている

他の班にも1人のオペレーターがいるが、オペレーションを行うのは戦闘や追跡がある場合のみのため、基本的には事務職を兼務する



「今からでも視察間に合うけど、めんどいし明日で」



一件落着の余韻で、帰社して即座に騒ぎ出す夜斗・霊斗・少女だった

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