第33話

翌日月曜日

夜斗は自分の軽自動車で東北支社に向かって走行していた

夜斗の車両には無線が搭載されており、社用回線や警察無線からの声に答えることが可能となっている



『冬風君、聞こえるかい?』


「こちら冬風、どうぞ」


『おや、今日は自家用車の日なんだね』


「まぁ…そういう日もあります」


『少し長くなるけどいいかな?』


「運転中です」


『まぁまぁ、そこは僕の権限でどうとでもなるよ』



話し相手は奏音の父、颯という者

警視総監を務める人物で、夜斗は子供の頃から世話になっている



「内容とは?」


『今、君のところに山下さんという人の依頼はあるかな?』


「あー…。なんか、LIME関係でのトラブルがあってーみたいな。娘と連絡がつかないらしいです」


『その人、逮捕されたよ』


「マジですか。なんで?」


『どうやら、犯人を唆したのが母親らしくてね。どの学校に通ってるかとか、現在の位置情報を伝えたんだって供述してる。実際保護された女の子もそう言ってるんだよ』


「あー…。一応聞きますけど、犯人の供述は?」


『見合いだと言われたらしい。初対面のときにその山下被告の立ち会いのもと見合いをしてて、今回誘拐したのも本人の希望があると母親…被告に聞かされてたんだと。本人に聞いたところ、日頃虐待されていて逃げるために従ったらしい』


「また虐待それか。原因は?」


『家事育児のストレスらしいよ。育てる気がないものに子を産む権利なんてないんだけどね』



颯はまだなにか言いたそうだ

それも、探偵としての夜斗の勘が優れており、今も言いたいことがあるということに気づいているとわかっている



「…聞いてあげます」


『この子の成年後見人になってほしいんだ。九条家でなってもいいんだけど、そうなると申請が複雑でね。僕が警視総監だからというのもあるけど』


「辞めたらいいじゃないですか」


『稼ぎがなければ奏音の妹を養えないんだよ?』


「雇いましょうか?」


『寛大だね。まぁ、その奏音の妹が嫌がってるというのもある』


「じゃあ仕方ないっすね。俺の方で面倒見ます」


『ありがとう!もうそろそろ事務所に到着するはずだからよろしく!』


「え?いや急すぎて準備できな―――切りやがった…」



ブツッという音と共に無線機がノイズを発し始めた

無線機に流れ込む電波がなくなったということだ



「…こちら冬風どうぞ」


『雪菜です』


「今日はお前が電話番か」


『真夜がいないので…。ご用件は?』


「なんか、俺を成年後見人とする子が届くからしばらく相手しててくれ。家の方はすぐに手配するけど、荷物とかないらしいからお前と真夜と俺とその子で買いに行く」


『センスを補う作戦ですか?瑠璃さんも一緒にいきましょう』


「そこは任せる。ただあんま大人数にはしないでくれ」


『承知しました。お戻りをお待ちしてます!』



元気な雪菜の声を最後に、夜斗は電話を切った

休まる暇もない。元々休んでいることのほうが少ないため、あまり違いはないのだが



「…さて、視察に行くか。泊まって帰ろうと思ったけど日帰りだな…」



溜め息をついて、夜斗はアクセルを踏む足を強めた

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