第31話
日曜日。夜斗は部屋でくつろぎながらスマートフォンを弄っていた
画面に表示されているのは近年話題となったゲームについてのネット記事だ
(うんうん、どっちが言ってることも理解はできるけど、俺は時間がない正社員だからな)
その記事は、格闘ゲームについて論議していた
実家暮らし学生と、実家暮らしであっても家事を担当している正社員。どちらがより強いかを書いていた
結論から言えば、当然学生だ。時間があるなら練習もできる
夜斗のように、日曜日しか休みがなく平日も帰りが遅いような人達は、睡眠時間を削らなければ勝てない
(ま、休みだって遊びのために練習するなんてほど暇じゃないわな。家事もあるし、勉強だってするし。俺の場合緊急出動に備えてなきゃいけない)
夜斗は勝手に起動したパソコンに目を向けた
そこに起動シークエンスを終えたパソコンが、またも勝手にソフトを起動する
そして画面に表示されたのは、桜音と雪音の顔だ
「どうした?」
『お忙しいですか?』
「いや、暇を持て余していた。ゲームのネット記事読んでたんだが」
『ちょうどいいですね。その件で事件です。なんだったかな…タイトル忘れましたけど、格闘ゲームで対戦してた20歳の男性2人が揉み合いになって、刺し殺したそうですよ』
「ほほう。経緯は?」
『回答。2人のうち片方は学生、もう1人は中小企業の正規雇用社員。時間の差や金銭的な問題から、学生はかなり昔からそのゲームをしていた。正規雇用社員は時間が取れず、腕が上達しない。それを学生が煽り、正規雇用社員がキレて手元にあったサバイバルナイフで腹部を数回刺した後、這って逃げようとした学生の背中を十回ほど刺し、頸動脈を切り裂いた』
「明確な殺意があるな」
『しかもですよ?これ、学生の方はやるたびに煽ってたみたいなんですよ。で、正社員の人がやる気をなくしてコントローラー投げてソシャゲしてたら文句言ってたらしくて、なんていうか自業自得です』
「もう捕まったのか?」
『肯定。釈放された』
桜音が告げた衝撃的な判決に、夜斗がつい「あ?」と声を上げる
『日頃バカにされてたのを正社員の方が録音してて、精神的被害を訴えたんですよ。ほら、最近施行された法令があったじゃないですか。殺人事件の前に、被害者と加害者の間でイジメがあったら〜っていうあれです』
「ああ…イジメの証拠になるものがあったら罪が消えるやつか。アレなかったら耐えるしかないとかいう鬼畜な今までがおかしい」
近年の殺人事件の中に、「イジメられていたからやり返した」というものが多発していた
そしてイジメの対策を講じることが国に求められたため、国はようやく重い腰を上げたのだ
結果生まれたのが、精神的殺害防止法及び精神的殺害・暴行時情緒酌量というもの
継続的なイジメに対する懲役・罰金刑と共に、仮に殺人事件となった場合に、イジメの被害者の罪を帳消しにするというものだ
イジメの加害者の親もしくは配偶者は、加害者が亡くなったために被害者への慰謝料を負担することになる
「わりとあれ、イジメの抑止につながってるよな。人間死にたくないし」
『えぇ、そうですね。ただ、ゲームに適用されたのは今回が初めてです。ハメ技が使えるのは練習の賜物だ、と学生の親が訴えたんですけど、なら別のゲームしてたら殺人事件にならないよね?ということで無罪放免です』
「改めて聞くとめちゃくちゃな法律だな。加害者を殺しても被害者は無罪放免。それどころか、加害者の親族から金を毟れる」
『同意。けど、いじめなければいいだけ。尚、正規雇用社員はゲーム会社を訴えている』
「わーお…」
『なんか、この事件を起こした真犯人はゲームを作った開発者や発案者と、販売を許可した会社だってことらしいです。一審は有罪で、提訴されました』
「だろうね」
そんなことで有罪になってはたまったものではない
しかし、世論的には会社側が劣勢なようだ
「それって仕事がきたってことか?」
『否定。ただの世間話』
『主様は中々仕事中話してくれませんしね。あ、あともう1つあります』
「お、おう…」
夜斗は2人の話に付き合うため、パソコン前の椅子に座った
と同時にバイトから帰ってきた瑠璃を、近くにあった椅子に座らせる
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