第30話

「『えー、宴も闌ということで…ちょっとそこのベロベロに酔ったバカの言葉があるはずなんだが…おい霊斗、いけるか?』」


「…」


「社長、お兄ちゃん瀕死かも。というか普通に死ぬかも」


「『じゃあ桃香代わりに』」



桃香がステージにたち、夜架の方を向く



「『てすてす。えっと、夜架さん。なんか謎に盛大になっちゃったけど、どうだったかしら。企画は社長だけど、みんなそれなりに楽しんで祝ってるはずだわ』」



原稿など用意していなかった桃香だが、生徒会長としての能力を遺憾なく発揮し、何も見ずに即興で終幕の言葉を述べる



「『このあと、ちょっとしたサプライズと称して社長から何か渡されるはずよ。ね、社長?』」


「サプライズではなくなったがな。今、まさにお前のせいで」



夜斗は冥賀が手渡してきた袋を開いた

そしてまた用意された椅子に座る夜架の後ろから、ネックレスをつける



「センス?そんなものはない」


「あら…ペアネックレスですのね?」


「ああ。お前からのアピールに応えた結果だ」


「ふふっ、来年は指輪を期待しておきますわ」



夜架はとびっきりの笑顔を見せた





なぜか実施された記念撮影の後、夜斗は夜架につたえてあったサプライズを決行する



「『よーし皆の者!準備はいいか!』」


「「「サー、イエッサー!」」」



瑠璃だけはなんのことかわかっていない

全員が瑠璃の方を向き、指で作った銃を向ける



「「「サプライズゲスト!!」」」


「『ということで、ラストサプライズ!瑠璃の誕生日は、先週の月曜日!というのを昨日知った!』」


(そういえば言ってなかったね。忘れてたよ、この8年…いや、もっと前からの付き合いなのに)



夜斗がステージを降りる

全員が瑠璃までの道を空け、クラッカーを鳴らした

夜架も、クスクスと笑いながらクラッカーを鳴らしていた



「誕生日おめでとうございました、だな。こいつはそのプレゼンット!」



夜斗は箱を一つ渡した

瑠璃が箱を開けると、そこにはピンクゴールドの時計が入っていた

あの時計店で購入した、最高級ペアウォッチだ



「『まぁ俺や瑠璃の性格的に、機能性重視のものだ。ありがたく使え』」


「『主様の悪い癖ですわ。恥ずかしさを誤魔化して高圧的になるのは』」


「『やめろぉ!』」



一堂が笑みに包まれる

瑠璃は夢でも見てるかのような顔をしていた。目を擦り、また時計を見る

夜斗が取り出したのは、対となるマットブラックの時計だ

それを腕につけ、瑠璃に見せる



「いつでもかけてくるといい。仕事中でも出てやる」


「……ありがとう」



感極まった瑠璃は、夜斗に抱きついた







2時間後。夜斗と霊斗は飲み屋にいた

片付けを終えた2人は、飲みに行くという瑠璃を途中まで送り、ここに来たのだ



「怒涛の一週間だな。俺にとっても、霊斗にとっても」


「かもなぁ。つかよ夜斗、お前瑠璃さんのこと好きなん?」


―――ゴフッ(飲んでいたジンジャーエールを吹き出す音)


―――ビチャ(吹き出したジンジャーエールが霊斗にかかる音)


――ドスッ(霊斗が反射的に夜斗を殴る音)



「…」


「悪い、つい反射で」


「…何も言うまい。好きかと問われるとわからん、というのが答えだ。恋愛など満足にしてきてなくて、感性が破損してる」


「そういやそうだったな。元カノはなんだっけ…浮気だっけ?」


「むしろ最初の彼女以外浮気で別れてるが?しかも相手は大抵友人と紹介されてた人だが?」


「悪かったって。ほらハイボール」


「おおありがとう…とはならねぇよ運転すんだぞこのあと」



夜斗はそう言ってジンジャーエールを再注文した

便利なもので、卓上のタブレットで注文できるというハイテクな居酒屋だ



「相変わらずのバカだな、夜斗」


「…もうそろそろ彼女作れよ。天音とか」


―――ゴフッ(霊斗が飲んでいたハイボールを吹き出す音)


―――ビチャ(吹き出したハイボールが夜斗にかかる音)


――ゴンッ(夜斗が反射的に霊斗を殴る音)



「強いんだよ殴るのが!って天音と付き合うことはできねぇよ」


「あ?なんでだよ。お前ずっと好きだったんだろ?」


「そうだけど…。稼げてないし、責任取れるほど金が無い」


「なんでそんな早く子供作る気なのかは横においとくけど、お前そんなんで彼女できると思うなよ?」


「高知県並みの特大ブーメラン刺さってるぞ」


「高知県に謝れ」



夜斗はちょうど届いたジンジャーエールを一口飲み、枝豆を注文した

飲み代は折半のため、2人とも遠慮がない



「お前がその気なら、告白の場を整えてやる。その気じゃなくても瑠璃か夜架にやらされるだろうな」


「…する気はあるんだよ。けど、度胸が湧くのとは別だろ…?」



霊斗が飲み干したハイボールジョッキに手をかけ、なくなっていることに気づいて注文する



「ヤケになるのも自由だが、探偵社社長の俺が断言してやる。お前は告白すれば、彼女ができる」


「…ならいいんだけどな。それに、蒼牙が天音を好きなんだよ」


「知ってるぞ、調べたし」



というのは嘘で、実際には蒼牙からの相談を受けているから知っているのだが

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