第29話

事務所地下。霊斗はスピーカー等放送設備を床に置き、荒い息をしていた



「死ぬ…マジで死ぬ…」


「おつかれさん、緋月。あとは俺がやるから休んでろ」



霊斗がヒイヒイ言いながら両手で持ってきたスピーカーを、黒鉄が片手で持ち上げて移動させる



「別に…黒鉄で、良かっただろ…これ…!」



霊斗は決して怪力ではない

黒鉄が異常なだけで、40キロ近くあるスピーカーを片手で持つことは大半の人には不可能だろう

草薙はスマートフォンで写真を撮り、場所の再確認を行っている



「準備完了。あとは主と瑠璃さん桃香が来るのを待つだけだ」


「黒鉄もよく付き合ったなこれ…」


「いやまぁ、主やら夜架さんにゃ日頃世話になってるからな。それに…まぁ、これはいいや。さっさと所定の位置につけ、緋月」


「待って、まだ…息が…」


「戻ったぞ。ん?ほとんど終わってるな。あとは飯が来れば完了ってところか?」



戻ってきた夜斗が袋を片手に言う

霊斗は物申してやろうと立とうとしたが、貧血によりふらついた



「無理しない方がいいよ、緋月霊斗」


「瑠璃さん…。天使ですか?」


「悪魔かもしれないよ。そろそろ主役くるし、位置につかないと」


「鬼だ…」


「総員位置についたな。よーし夜架呼びつけるぞ」



数分後。事務所で仕事をしていた夜架が地下に到着し、ドアを開けた瞬間全員がクラッカーを鳴らした



「「「ハッピーバースデイ」」」



全員で祝いの言葉が合唱される

夜架は狐につままれたような顔をした



「今年はまた…随分と様変わりしましたわね」


「たまには大人数ってのも悪くねぇだろ。主役席はあそこだ」



ホールにある僅かな高さのステージに設置された机と椅子

そこを示した夜斗が、膝をついて手を差し伸べる

夜架はその手を取り、微笑んだ



「主様にエスコートしていただくのも悪くありませんわね」


「だろ?さて…瑠璃!」


「総員準備!」



瑠璃の号令で、瑠璃の父の部下が料理を運び込んでいく

その早さはおおよそ素人のものではなく、超一流の配膳係のようだ



「さて、主役もきたし食事と洒落こもうぜ。マァァァイク!」



マイクを霊斗が持っていることにようやく突っ込んだ夜斗は、霊斗からマイクを受け取り話し始めた



「『えー…。毎度恒例、社長の気まぐれパーティー。今回はうちの先鋭、夜架の誕生パーティーだ。静かな誕生日など面白くない、騒げ!』」



夜斗はマイクを夜架に差し出した

そして椅子を引き、夜架を立たせる



「『ありがとうございます。思っていたより豪勢で困惑しておりますわ。緋月霊斗さん以外に、多大なる感謝を』」


「何故俺だけぇ!?」



拍手に包まれる会場

夜架は霊斗に向けて少し笑い、座った

夜斗はまたマイクを持ち、ドリンクを手に取るように言った

そして



「当然、主役が乾杯の音頭を取るべきだな」


「…あら、なんというサプライズ。ではお言葉に甘えて。ここまで盛大なものを用意していただいたこと、感謝いたしますわ。皆様に乾杯、ですわ」


「「「乾杯!!」」」



用意された料理は立食形式

夜架の机と椅子は、黒淵兄弟が高速で撤去した



「主様は食べませんの?」


「ん?ああ、今日はお前が主役だし、控えめにするだけだ。食わんと夕飯なくなる」



夜斗は夜架を撫でた

夜架はふと、気づいたかのように手をポンッと打ち鳴らした



「つまり今日は、合法的に主様からのあーんを受け取れるわけですわね?」


「わーお予想外の反応…。やってやるけどさ…」



こうして食事会は進んでいった

途中、霊斗が桃香に野菜を食えと脅されていたが、それはまた別のお話

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