第28話

戻ってきた夜斗は、何か袋を持っていた



「それは…?」


「後で教えてやる。夜架の誕生日買ってからな」



夜斗は歩き出し、すぐに立ち止まった

そして振り返る



「桃香、ネックレスショップはどっち?」


「…あっちよ」



諦めた桃香が、溜め息をついて方角を指差す

夜斗は桃香を前に出して、あとからついていくことにした



「ここよ。ペアネックレスにしろ呪術っぽいのもここにあるわ」


「なんであるんだよ呪術っぽいやつ…」


「店長の趣味ね」



店内に入ると同時に、店員の一人が寄ってきた

桃香によると、この店では案内人が一組に1人付くようだ

しかしこの店員、少し残念そうである。ぱっと見は購入の見込みがないからだろう



「ペアネックレスとかいうのはあります?」


「へ…?あ、ありますが結構お値段張りますよ…?」


「とりあえず見せてください。瑠璃と桃香は俺が迷子にならない範囲にいてくれ」


「迷子になるな、じゃないあたり夜斗さんよね…」


「そうだね…。まぁ、少し隣の店にいるよ」



店員と1:1となった夜斗

本来桃香を呼んだのは夜斗のセンスを補うためなのだが、そんなことはもう忘れている

おそらく、夜架は夜斗が選んだものと知れば何であっても死ぬまで離さない



「まぁまぁな値段だな…。20万…まぁセールスが持ってきたやつよか安い」


「セールス…?」


「…まぁ、友人の会社のセールスガールです。やたら高額だと思って友人に聞いたら、実はその10分の1の値段で、残りは着服していたという」


「あー…私の会社にもそういう人いました」



店員はそう言って少し笑った

実はその友人というのは澪のことだ。つまり、友人の会社というのは、レヴァリエにある服・アクセサリーショップ「ヘイズ」

夜斗はアクセサリーがそこにあることを完全に忘れている



「イマイチあいつに似合うとか言われてもわからんな。店員さん、この写真の子に合うようなペアネックレスあります?」


「ご予算次第ですが、いくらかかってもいいということでしたらこちらでしょうか」



最高値を勧めてくるかと警戒した夜斗だったが、提示されたのは先程のものより若干高い程度のものだ



「…1番高いのを勧められるかと思いました」


「売り上げよりお客様の心ですから。あわよくば次回のご利用をしていただければ元が取れます」


「正直っすね…」



夜斗は溜め息をついて少し考え、それを購入することにした

貯金から引くために、デビットカードで支払いを済ませる

そして隣の店にいるという瑠璃と桃香を連れ戻しに行った。のだが…



(…なんでナンパされてんだこんな僻地で)



2人の男に絡まれる瑠璃と桃香を助け出すために早歩きで向かおうとしたとき、人混みの中から少女が近づいた



(…あれは…?)


「…そこまで。私、強い。早めに立ち去ったら、無事で済むよ」


「真夜…。ついてきてたのか」



夜斗は変装したのであろう彼女を声で判断した

変声機は渡してあるのだが、どうやら使用方法がわからないらしく使っていない



「なんだぁ?お嬢ちゃんもアソビたいのかぁ?」


「……」



真夜は自分の後ろに視線を向けた

そこから現れたのは、夜斗がよく知る人物たち



(桜音と蒼牙そうが!?)



桜音は周知の通りオペレーターを務める事務員

蒼牙は、天音に片思いをしている霊斗の弟だ



「そこまでだ、お兄さん。怪我する前に帰ったほうがいい。この子は強いよ、俺より」



蒼牙はそう言って男たちが瑠璃と桜音に向けて振り上げた腕を掴んだ



(動かねぇ…!)


「動かそうとか考えないほうがいいよ。多分折れるし、折れなくても靭帯やるかも」



冷たく笑う蒼牙

男たちは涙目になり、腕を抑えながら立ち去っていった



「…お前ら、こんなところで何してんだ」


「…不明。私は蒼牙と真夜に付き合ってきた。雪音はただの行方不明」


「あいつも来てんのか…」


「夜斗、私置いてった」


「…そうだな」


「だから、ついてきた。雪音さんの、運転」


「テメェら共犯か」



蒼牙に少し目を向けて溜め息をつく夜斗

雪音にしろ桜音にしろ、どちらかに恩を売っておけばあとから夜斗が返す

それを知っていて、あえてついてきたのだろう



「まぁいい。用は済んだ、帰るぞ。雪音を見つけてからな」



雪音と連絡がついたのは、それから10分後のことだった

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