第27話

瑠璃と桃香を乗せた夜斗の車は、2時間の運転の末ようやくレヴァリエに到着した

桃香の先導で、ペアウォッチが売っている店へと移動する



「なぁんで夜架は俺に執着するんだか…」


「社長があの子を助けたからって聞いてるわ。ゆくゆくは愛人でもメイドでもいいから側にいたい、とか言ってたわよ?」


「マジか。まぁ、妻が許さないだろ」


「あら、妻なんてできるのかしら?あなたはもう魔法使いになる予定があるってお兄ちゃんが言ってたわ」


「アイツコロス」



30歳まで○貞なら魔法使いになる、という都市伝説のことを示しているのだろう

実際夜斗にそういった経験はない。それどころか、アイリスの他に彼女がいたことさえない



「ちなみに桃香ちゃん。夜斗って会社でモテるの?」


「全く?って言いたいところだけど、見た感じだとアイリスさんはまだ未練もってるし副社長は好きみたいだし、夜架さんはさっき言った感じね。最近だと、新入社員2人がアヤシイかなって思ってるわ」


「ふーん…。女たらしなんだね、夜斗は」


「何故そうなる。恋愛する気なんかない。脳が発する電気パルスの乱れだろ」



などと言っているが、霊斗と飲みに行くときにはだいたい彼女ができないと愚痴っている



「ふーん。そうなんだー」


「あれなんで期限悪いんスカ瑠璃さん」


「知らない」


「え?でも…」


「知らない!」



先に先に歩いていく瑠璃

桃香は苦笑しながら、夜斗の背中を割と強めに叩いた



「社長もバカよね」


「…いてぇよ」


「Love that doesn't hold is also fun」


「…なんて?」


「…知らないのね。『アイノカタチ』っていう歌の歌詞よ」


「意味を聞いたんだよ」


「成り立たない愛もまた一興、って意味よ」


「は?」


「あとは自分で考えて。瑠璃さん見失っちゃうし」



桃香は後ろに手を回して組んだ

肩越しに夜斗を見て、笑った。まるで弟を見るような目で



「瑠璃」


「…すまない、取り乱したよ」


「珍しいな。この8年で数回しかなかったろ」


「まぁね。気分の問題だよ」



瑠璃は追いかけてきた夜斗から、逃げるでもなく素直に答えた



「…桃香。ネックレスの店ってあんのか?」


「あるけど…」


「ならいい。夜架の誕生日はそっちにしよう。それはそれとして、時計の店に連れてってくれ。再来月には霊斗の誕生日だしな」


「そういえば緋月霊斗の誕生日はクリスマス近かったね」



夜斗は桃香に連れられて時計店に移動した

瑠璃がどんどん奥に入っていったため、当初予定していたメーカーではなく大手のメーカーだ

こちらはペアウォッチというよりはブランドとしての色が強く、ペアウォッチも1種類しかない



「これが良さそうだな。3万くらいだし」


「機能性でいうならこっちもいいと思うよ。お値段は張るけど、GPS測位と着信応答機能がある」


「GPSはこっちにもあるけど着信応答は中々だな。つか現代の時計ってGPSあるの冷静にすごいよな」


「技術の進歩は人の歩みだからね」


「じゃあ瑠璃セレクトのそれにするか。ちと予約してくる」



瑠璃は去っていった夜斗を眺め、近くにあったペアウォッチに目線を移した

マットブラックとピンクゴールドのペアで、機能で言うなら最高峰ともいえる

着信応答機能やスマートフォンの通知を受け取る機能。さらにはスマートフォンを介さずにペアウォッチを持つ者と通話する機能まである



(なんというか、技術革新は恋路さえ決めてしまうんだね。夜斗となら、このペアウォッチもいいけど…)


「あの、お客様。大変申し訳ございません、そちらの商品ご購入の方がいまして…」


「ああ…すみません、退きます」



瑠璃の目線は、店員が白い手袋をしてまで丁重に扱うペアウォッチに固定されている

店員が柱で見えなくなるまで手元を目で追いかけていた

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