第26話

翌日。午前6時半

夜斗は瑠璃に声をかけて、会場の設営に向かった

霊斗・桃香・夜暮も手伝いに来る予定だが、冥賀は娘の運動会で不在のため、少し人員が足りていない



(そういや冥賀って妻子持ちだったっけな)


「夜斗、ざっくり設営の流れを説明しろ」


「霊斗、動く。俺、見る」


「仕事量考えて!?」


「桃香と瑠璃はプレゼント見繕ってほしいから同行してくれ。霊斗と夜暮は円卓の用意。あとから黒鉄と草薙くるから、奴ら来たら霊斗は離脱して機器の用意な。マイクとスピーカーがあればいいけど、社長室横の倉庫にあるから手持ちして」


「絶対だるいやつだ…」



霊斗の妹、桃香はよく動く

それにセンスもいい。理系2人だけで選ぶと、機能性しかない無機物になるため、桃香を呼ぶことにしたのだ



「ゴーだな。よし、桃香先生。指示をください」


「そうね…。まずレヴァリエ行くわ。あそこなら何でも揃うし。まぁ夜架さんなら、社長とペアなら何でも良さそうだけど」


「「時計だな(だね)」」


「理系の相手するのめんどくさい!」



桃香の叫びも虚しく、夜斗が運転する軽自動車は高速道路によって移動することに決まった



「桃香、来月また正式に辞令出すけど、お前多分事務になる。とりあえず真夜と雪菜を実働にするから、俺が真夜、霊斗を雪菜の教育係にする予定」



当初は夜斗と霊斗で組む予定だったのだが、ちょうどよく2人入ってきたため予定変更し、教育のために桃香を事務にすることにしたのだ



「了解。少しは気が楽になるわ」


「事務については奏音か夜架に聞いてくれ。俺は何もやってない」


「社長業務のみよね。まぁいいけど。瑠璃先輩は夏目に入るんですか?」


「今のところはその予定かな。そのために経済・心理学を専攻してるし」



瑠璃は外の景色を見るのをやめて、会話に参加した

事務所を出てから一切喋らなかった瑠璃。約30分を経てようやく一言目だ



「てかずっと喋んなかったなお前」


「…ああ。ちょっと思うことがあってね」


「どうした?」


「私の誕生日、ここまで祝われたことなかったな…って」


「俺がどんちゃん騒ぎしてやろうか?」


「ちょっとそれは怖すぎるかな…」



小さく笑った瑠璃は、夜斗の左手に触れた

運転に集中した夜斗は、運転に関わらないことには全く気づかない



(願わくば…夜斗がこの想いに、応えてくれますように…)



瑠璃の願いは、後ろから見ている桃香には明確に伝わった



(…あれ、なんで俺の手に瑠璃の手が乗ってんの?新手のいたずら?)



そう、運転に関わらないことには気づかない

左手はわりと運転に使う。つまり、運転に関わりがあるのだ



(まぁ、いい。こいつがそれでいいというなら、俺は何も言わん)



そして夜斗は信号前で停車し、少し肩の力を抜いた

少しだけ目を閉じ、瑠璃の手を握る



(…!夜斗…?)


(覚えてるのかも、知らん。だが少なくとも俺は覚えている。記憶能力が平均より遥かに下であっても)


(夜斗が覚えていたらいいな、とは思うよ。ただ夜斗の記憶力じゃ、無理があるかもね)


((10年前の、あの約束なんて、君は覚えてないだろう))



桃香がクスッと笑い、その空気に触れないよう外に目を向けた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る