第22話

車で到着したのはタワーマンションの最上階

金持ちであることが予想されてる

というよりは確定だ。ここの月々の料金は、イチサラリーマンの3ヶ月分の給料でギリギリ払いきれるかどうかという領域である



「真夜」


「ん」



エレベーターでここまで来た2人。退路はエレベーターと階段があるものの、階段は常に施錠されていて使うことができない



「突入」


「りょ」



2人は管理人に借りた鍵で中に入り、銃を構えながら廊下を歩く

突き当りの大きなリビングは誰もいない

というより、物音が全くしない



(はずれか…?)


「…クローゼット。匂い、する」



真夜は言うが早いかクローゼットのトビラを開いた

中にいたのは中年男性が一人と、真夜と同い年程度の女の子だ



「…雪菜?」


「真夜?なんでここが…」


「知り合いか?俺は夏目探偵社社長冬風夜斗。そして真夜は真夜だ」


「な、何だ君たちは!」


「雪菜ちゃんだっけ?君の母親からの依頼で捜索していた。GPS測位情報経由で調べてるから合法…とか気にする必要ないけどな。第零特務機関だし」


「第零特務機関…!?国家権力を持つ民間企業の…!?し、しかし虐待親の元に返すわけには…!」


「真夜、初の実地訓練だ。心してかかれよ?まずはそうだな…雪菜ちゃんの保護だから、男を拘束しろ。捕まらないように」


「りょ」



男を庇うような位置に移動した雪菜だったが、真夜は速かった

瞬く間に地面を蹴って壁際に移動し、即座に方向を変えて男を蹴り飛ばす

そして手錠で腕を背部で固定してみせた



「…こんな、感じ?」


「……上出来だ」



夜斗は雪菜に近づき、目を見た

夜斗と真夜を恐がる目をしている



「10時56分、未成年誘拐及び逮捕監禁罪で現行犯逮捕。被害者外傷なし。真夜、人員を呼ぶから少し待て」



夜斗が外に出たあと、真夜によって足に手錠をつけられた男が騒ぎ立てる



「君はこの子の知り合いなんだろ!?なんで虐待する親の元に戻そうとするんだ!」



真夜はあくまで冷静に答える



「…?犯罪、だから。虐待、知ってたなら、うちか警察…。当たり前でしょ…?」


「それは…!け、けど!」


「言い訳なんて、誰でもできる。保護は、公的機関がやるべき…」


「待ってよ真夜!せっかく…せっかく見つけた安全なのに!」


「…浅はか。同じ施設出でも、ここまで堕ちるんだ」



真夜は表情筋だけで笑う。目は笑っていない

それは侮蔑と嘲笑を混じえた、恐怖さえ感じる笑みだった



「雪菜。あなたは、バカ。養子でも、逃げることはできた。私は施設に捨てられた、けど…それでも、生きてる」



言外に、雪菜は生きていないと告げる真夜

男はただただ恐怖に震えていた。何が年頃の乙女を、こうも残酷に仕立て上げるのかと

そしてその原因を、夜斗だと断定した



「あの社長が怖いなら僕のところで暮せばいいじゃないか!無理している必要はないはずだよ!」


「…?犯罪者のいうこと、わからない。それに、あなたのそれは…ただの、ロリコン」



真夜はクローゼットの上段を見ることなく指差した

驚きの表情を浮かべる男とは裏腹に、雪菜はなんのことか分からず首を傾げる



「雪菜、見て。あなたの、浅はかさを」



雪菜は止める男の声を無視して、クローゼットを覗き込んだ

と同時にのけぞるようにしながら悲鳴を上げる



「ひっ!?な、なにこれ…!」



クローゼット上段一面に貼られていたのは、大量の雪菜の写真。どれも盗撮だ

そして床面に置かれているのは、雪菜が自宅に置いてきたと思っていた下着が数枚

さらにはSDカードだ



「その、メディア。見て」



真夜は雪菜に、持ってきていたカメラを渡した

再生機能のあるそれで、美羽はSDカードを読み込ませて映像を見る



「なに…なんなの、これ…!」


「目を、逸らさないで。それが、あなたの罪」



それは盗撮映像だ

それも、入浴中の映像。数枚のSDカードには、あらゆる角度から撮影された映像が記録されていた



「…なぜだ…いつ気がついた!」


「…?クローゼット、雪菜の匂いした。雪菜が、外に出ても匂い消えない。だから、何かあるのわかってた」



真夜はそう言いながら、戻ってきた夜斗に駆け寄った

そんな真夜を撫でる夜斗。雪菜はまだ衝撃から立ち直れていない

この男が、雪菜のストーカーであることを知った

と同時に、自分がいかに危険なことをしていたかを知ったのだ



「…さて、俺は次の仕事をせねばならん。神崎雪菜、ご同行願おう。真夜、この場は黒鉄と草薙に任せて行くぞ」


「ん。私の、肺が汚染される」



かなり酷なことを言い残して、真夜は一足先に外に出た

夜斗は呆然とする雪菜を抱えて外に出る。そして集まってきていた野次馬に、社員証を見せながらエレベーターに乗り込んだ



「あとは頼むぞ」


「おう」「ああ」



エントランスですれ違った黒鉄と草薙に声をかけて、夜斗は雪菜を車に乗せた

真夜を雪菜の隣に座らせて、運転席に乗り込む



「…ここからが本番だ」



夜斗は2人に聞こえないように呟き、車を発進させた

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