第21話

23時。夜斗が寝る時間だ

ベランダでため息をついた夜斗が、出てきた瑠璃を見る



「黄昏てるなんて珍しいね」


「そうか?まぁ、実を言えば瑠璃と同居するなんて夢にも思ってなかったからな」


「ふふっ、それは私もだよ」



風呂上がりの2人は、まだ髪が湿っている

さすがに風呂は別だったが、それ以外はほぼずっと一緒にいる二人

新婚かそれ以上に時を共にしているのではなかろうか?



「奇跡の力だよ。こうして2人でいるのも、莉琉が夜斗を好ましく思ったのも全て。科学とは違うけど、運命は選択肢次第じゃない?」


「さてな。運命は一本道理論ってのもある。もう辿る未来は決まっていて、分岐しないという仮説だ」


「どちらにせよ、証明は難しいね」



2人は冷蔵庫から出してきた缶カクテルを開け、乾杯した

何かの祝いでもなく、2人の気分だ



(タッピングにしろアイシグナルにしろ、単調すぎて解読されやすい。そこは改善点だな)



夜斗は酒を飲みつつそんなことを考えていた

手すりに腕をついて、2人は街の景色を見る

下の階からは電話しながら笑う声が聞こえ、上の階からは家族の団欒が聞こえる

だからこそ夜斗はこの部屋を選んだ。社員の温かい声が聞こえるこの場所を




翌日。冥賀を呼び出した夜斗は、事務所の休憩室でコーヒーを飲みながら話を聞いていた



「以上です」


「…LIMEで繋がったのは中年の男性。その娘の年齢は18歳。歳離れ過ぎだな。そして2週間前から行方不明…。にしては依頼出すの遅くね?」


「部屋を見せてもらいましたが、家具は何もありませんでした。押し入れの中も空で、人が生活してるとは到底思えませんね。ただ、部屋内部ではアンモニアの匂いが充満していて、唯一置かれていた鉄製の机付近の壁に何かをこすりつけたような跡があります」


「…虐待だな。それも、手錠で拘束されてまともにトイレにも行かせてもらえてないんだろう。ただ、周囲の目をごまかすために携帯電話を与え学校には行かせていた。ゲームをやらせたいたのもカムフラージュだろうな」



夜斗はそう言いながらコーヒーを飲み切り、缶をゴミ箱に投げ込んだ



「問題は…なんで俺たちに依頼したのか、だな」


「それも社長に頼みたいという奇特な方でしたしね。あり得るのは、虐待によるストレス解消ができなくなったから早く連れ戻したいというものですかね?」


「絶対ないとは言えないな。これ、家に戻して大丈夫か?」


「わかりません。が、LIMEの会社に問い合わせて現在位置は特定しました。区画256、東京都新宿区のタワーマンションです。縦軸GPSによれば最上階ですね」


「……俺が行こう。真夜を連れて行く。冥賀、社員が増える覚悟をしておけ」


「全く…。現行法令では確かに16歳から就職可能ですが…。わかりました。それと、達也君がパソコンの準備できたと言ってましたよ」


「了解した」



夜斗は真夜のデスクに近づいた

周りは真夜を避けるが、夜斗・副社長・霊斗・桃香は避けることなく気さくに話しかける



「真夜、仕事だ。被害者はLIME経由で誘拐され監禁状態。親からの虐待から逃げるためだと予想されてる」


「ん…。わかった」



真夜はゆっくり立ち上がり、夜斗に笑みを向けた



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