探偵たちの心

第20話

引っ越しの荷物を載せたレンタカーは、夜斗の自宅前で待っていた黒鉄・草薙に誘導されて駐車場に入り、夜斗と黒鉄草薙の3人がかりで部屋に運び込んだ



【普通に恋愛するってのもまぁ難しいな】


【いやそんなことタッピングで話すなよ。つか主の場合恋愛が嫌いなだけだろ】


【泥沼は嫌だからな。草薙だって嫌だろ?】


【…俺は別にどうでもいいかな。恋愛する気はないけど、告白されれば付き合うし。俺は感情操れるから】


【受動的すぎるぜ…】


【【お前はもう少し節度をもて】】



夜斗と草薙のツッコミにより終わったタッピングによる会話

となりに瑠璃がいるからこその話し方だ



(とはいえ実際好きな人が誰かって聞かれたら困るんだよなぁ)


「どうしたの、夜斗。私の顔になにかついてる?」


「…いや、なんでもない」



瑠璃を見て、少し自分の感情のゆらぎを感じた夜斗

そのゆらぎを感じなかったことにして、夜斗は黒鉄と草薙を見送った



「…さっきのがタッピング?」


「よく知ってんな」


「私が捕まってるときに、久遠さんと舞莉さんが使ってたからね。まだ解析はできてないよ」


「するなよ社内機密なんだから」



夜斗は瑠璃の隣に座り、その髪に触れた

そして少し持ち上げて、自分が何をしたいのかがわからなくなり触れるのをやめる



「今日はあまり触らないね」


「いや…。まぁ、俺はお前のこと好きだからこんなことすんのかなぁって」


「っ…!さ、さぁ?私も知りたいね、そのあたりは」



瑠璃の表情が強張ったのは僅か1秒にも満たない

それに夜斗が気づくことはなかった



「…まぁ、私は夜斗に膝枕してると落ち着くね。夜斗は?」


「紗奈にされるよか安心感がある」


「ああ…妹ちゃんだっけ。妹ちゃんにもされてるんだ?」



いたずらっぽく笑う瑠璃に、夜斗は肯定の意を返した



「たまにやらないと生徒会のストレスが発散できないらしい」


「ああ…。なんかわかる気がするよ」



夕方となった外から差し込む日が2人を照らし出す

眩しさからか、目を閉じた夜斗の顔に自分の顔を近づけた瑠璃だったが、鳴り響いたスマートフォンに驚きつつも平静を装う



「夜斗、電話きてるよ」


「ん?ああ…冥賀かな」



夜斗は寝室を出てリビングに移動し、応答した



「冬風です」


『こちら黒淵です。一応依頼書は取ってきましたよ』


「どんな塩梅だ?」


『おおよそ今まで通り、LIME関係です。ゲームで知り合った人と付き合っている娘の様子がおかしい、と』


「おおう…。詳細を頼む」


『了解です。明日で良ければ書類込みで話しますが?』


「それで頼む」



約束を取り付けて、夜斗は通話を終えた

少しだけ可能性的にあり得ることを想像しながら、瑠璃の元へ戻った



(飯か。まだ材料すら買ってないな)



夜斗はそんなことを考えながら冷蔵庫を開けた

そして驚き、瑠璃を呼んだ



「どうしたの?」


「これ、瑠璃が買ったのか?」



冷蔵庫の中を示す夜斗

中身は食材に溢れ、夜斗が作れる料理は全て作れるほどの分量があった



「ああ、久遠さんに電話して、引っ越しの間に運び込んでもらったんだよ。舞莉さんの協力もあって、かなり良質なものを多く揃えられたと思うよ」


「あの2人に教えた技術がこんなところで役に立つとは…」



食材の目利きは夜斗が久遠と舞莉に教えたものだ

いきなりスーパーに連れ出し、良質なものを選ぶ目を養わせたのは、潜入捜査の中に高級ホテルの厨房や老舗旅館の従業員などがあったためである



「じゃあ、なんか作るか」


「夜斗が作る夕飯というのもなかなか久しいから楽しみにしておくよ」


「そういや最後に食わせたの2年前とかだな。まぁあれから技術は上がってるぞ。紗奈に教わったからな」


「ふふっ、期待しているよ」



瑠璃は寝室に戻り、夜斗はフライパンを片手に材料を探した



「ケチャップともも肉と〜…にんにく、醤油、塩コショウ、みりん〜いやまじでなんでもあるな」



冷蔵庫や食品棚の中身を見て、久遠と舞莉はいい嫁になるな、などと世迷言を言いつつ大きめのジップロックを出した



「肉切って〜………切れん」



そう、夜斗は包丁を使ったことがほとんどないのだ

実家で紗奈に教わるときも、予め切られていたものを使用していた

夜斗が包丁を握ると紗奈に持っていかれて数段美味しいものを作られてしまうため、包丁を使ったのは学生時代にやった調理実習のみである



「……レッツ検索」



ネットで調べ、包丁で肉を切るコツを調べた夜斗はまた肉に包丁を当てた



「包丁は摩擦で切るらしい。おー!切れた切れた」


「待って夜斗。何その包丁使うの初めてですみたいな反応は」


「今までは紗奈が切ったものを調理してたから、包丁使うのはかなり久しぶりだ」


「だろうとはおもったよ!?紗奈ちゃんが夜斗に料理させるかなぁとか思ったよ!」



寝室から顔をのぞかせた瑠璃が思わずというようにツッコミを入れる

紗奈は夜斗に包丁を握らせない。紗奈どころか、もう1人の妹である朱歌しゅかさえも夜斗に料理をさせたがらない



(…そういえば霊斗の妹は俺どころか霊斗にも料理させねぇな)



桃香の場合は家族以外がキッチンに立つことを謎のプライドで拒んでいるのと、超ブラコンであるため霊斗を甘やかしているという理由がわかっている

しかし紗奈と朱歌に関しては理由がわかっておらず、夜斗は今包丁を扱えていない



(まぁいいや。あとは焼くだけ)



ジップロックに具材を詰めて少し揉む

そしてフライパンで30分ほど焼けば完成である



(名前のない料理かんせーい。そろそろ名前つけてやりたい)



瑠璃にできた旨を伝えて夜斗はテーブルに料理をおいた

下ごしらえ前に炊いておいた米を茶碗に入れて夕飯となる

今までに何度か共に夕食をした2人だが、2人きりというのは初めてである



「そういえば瑠璃、学校楽しいか?」


「まぁまぁだね。天音いるし暇ではないけど、天音以外には全く興味がないよ」


「そんな気はしてた。俺も仕事…と言っても事業主だから、少し手間があるくらいで他は変わらん」



夜斗は高校卒業と同時に探偵社を設立した

最初こそ、夜斗と副社長・そしてバイトの霊斗しかいなかったが、今では従業員全員を合わせて1000人を超える規模になっている



「そういえば夜斗、支社の視察はいつ行くの?」


「多分来週の月曜日。今日が火曜日だろ?6日後だな」


「水曜日だよ。小田原が土曜日、莉琉と会ったのが月曜日、初日引っ越しが火曜日、捕まったのが水曜日で今日だからね」


「怒涛の一週間だな。曜日感覚狂ったわ」



夜斗はそう言いながら食べ終えた食器を洗い始めた

瑠璃も食べ終えたものを夜斗の元へ運び、洗い終わるのを待つのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る