第19話

事務所に到着したのは16時を過ぎた頃だった

応接室のソファーに真夜を座らせ、澪はに移動する

そして真夜の前に数枚の書類を置いて、夜斗は話し始めた



「まずこれが雇用契約書だろ?でこれが個人情報保護ガイドライン、あとこっちが社員寮利用規約と同意書、で――」


「急展開。私、何するの?」


「ん?ああ、言ってねぇや。俺の探偵社は、犯罪者雇用制度認定事業所って言ってな、罪を犯した人を雇って更生させる権利を持つ会社なんだ。お前を雇う代わりに俺は死ぬほど管理事項が増えるけど、そのまま刑務所よりはいいだろう」


「…勤務、無理。通いは、多分あの人たちの反感買う」


「だからこその社員寮だ。天才的だろう?俺が借りてるマンションの一室を貸すんだよ。管理会社も警備会社も入ってるし、なんだったら俺が同じ建物にいる」



全員が不動産屋を経由して借りているため、カムフラージュになっている。犯罪者のプライバシーだのと騒いだマスコミのための配慮だった

犯罪者と言っても、大きな罪に問われるものは対象外で、ほとんどの場合未遂に限定されるのだ



「…なんで、逮捕しないの?」


「うーん…説明すると複雑なんだが、結局税金対策だな。刑務所もいっぱいいっぱいで、新しく建てるのももったいない。だから未遂犯は俺の会社みたいに認定された会社に決められた年数雇用するんだよ。服役と殆ど変わらない」



夜斗は書類のうち1枚を示した

事業主が未遂犯に対して渡す書類で、腕輪のことについて書かれている



「位置情報管理…?」


「ああ。その腕輪にはGPS発信器が入ってる。設計上は10年バッテリーが保つし、電流を流すときはフルパワーだから残量気にしないという安心設計」


「安心、できない…」


「何かしなけりゃ問題ない。つかまぁ本当は届け出しなきゃいけないんだが、お前はからな」


「…?だって、スタンガン…」


「さてな。あの場にいたのはドジっ子新人の真夜と、社長の俺。新入社員研修でテンパっても無理はないだろ?」



つまり夜斗は、真夜がその場にいたことを新人研修ということにして、さらにスタンガンを夜斗に使ったことに対しても慌てて使っただけだ、とするつもりなのだ



「…いいの?」


「構わん。入社日は一週間前だ。そして予定があるから残りは夜架に任せる。」



夜架を呼び、あとは頼むと伝えて夜斗は事務所を出た

そして自宅に到着した夜斗は、久遠と舞莉にねぎらいの言葉をかけて中に入った



「瑠璃」


「夜斗!遅かったね」


「悪かったな。事後処理が異常に多いんだよ」


「久遠さん、舞莉さん。ありがとうございました」


「まぁ社長のお願いだからね〜。査定落とされると厄介だし」


「んなことしねぇよ」


「夜斗さん、せめて節度を守った生活をしてくださいね。初日お手つきはさすがに…」


「付き合ってもないが?」


「「え…?なのに同居…?」」



見事にハモった2人を無視して、瑠璃に引っ越しの続きだと伝えて玄関に向かう

久遠と舞莉も、これから夜勤でやる依頼に向かうため、1度事業所に戻るという



「夜斗さんは単独行動というのが裏目に出ましたね」


「明日からは桃香ももかを事務にして霊斗と組むかな」



桃香というのが霊斗の妹の名だ

あまり実働を好まず、事務員希望だったが霊斗と組むものがいない

そう、緋月家もまた社員なのだ



「瑠璃、レンタカーの期限がやばいから急ぐぞ」


「了解。ではまた」



瑠璃は久遠と舞莉にお辞儀してから、先に行った夜斗を追いかけて車に乗った

久遠と舞莉は肩をすくめながら同時に、同じことを言った



「「相変わらず、だね」」

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