第18話

30分後、澪が夜斗たちに合流した

ショッピングセンターは前述の通りかなり広い。3人が全てを回るには時間がないため、澪オススメの化粧品店に向かっていた



「はーい冬風です」


『夜斗、いい忘れていましたが君3時から依頼ありますよね?』


「あ…。忘れてた」


『その依頼、僕が行くのでそっちどうにかしてください。迎えは一時間後に夜架よるかが行くそうなので』


「あの事務員暇なのか…?了解した、一時間後だな」


『はい。なんとかしてください』


「ああ、そっちもどうにかしてくれ」



通話を切り、化粧品店に入っていった二人を待つこと数十分

夜斗は霊斗に土曜日の予定を聞きながら、戻ってきた2人に手をあげる



「お待たせー。結局薄化粧用になったよ。厚くやっても素材潰すかなぁと思って」


「そうか、化粧のことはわからんから聞かないでおく」



夜斗はそう言って意識の中で財布の中身を確認する

そして細く長い溜め息をついて、時計を確認した

時刻は15時半。瑠璃の引っ越しのことを考えてもそろそろ戻ってもいい頃合いだ



「帰るか。仕事もあるし」


「途中なの?」


「休みといえば休みだけど、同居人になるやつの引っ越しがな。そろそろ事情聴取も終わってる頃だし、真夜の処遇についても審議しなくてはならん」


「…今日、楽しかった。どんなことも、受け入れる」



夜斗は笑って真夜を撫で、夜架という事務員に電話をかけた



「お疲れさん」


『お疲れ様ですわ。駐車場に到着いたしておりますので、いつでもどうぞ』


「早いな。暇なのか?」


『粗方終わりましたわね。事情聴取の方も滞りなく終わったと聞いておりますわ。桜坂班からの報告によれば、主様の気絶中特になにかされたということもなかったようですし』


「なら俺がスタンガン食らっただけか。なら隠蔽も容易い」


『残りの男たちについては明朝、警察に引き渡す予定ですわ。真夜さんのことをずっと言っておりますが、妄想だと調書に記しておきましたので』


「良好良好。じゃあ行く」



少し離れたところで電話をしていた夜斗は、戻ったときに頭を抱えた

どうやら夜斗はトラブルを引き寄せる体質らしい。真夜と澪が男数人に囲まれていた



「澪、大丈夫か?」


「私達は大丈夫だけどここで問題起こさないでよ?私ここの総括なんだから」



男たちが夜斗を取り囲む

溜め息をついて、夜斗は少し笑った



「遅かったな、玲奈」



男たちを瞬時に投げ飛ばしたのは、背の低い小柄な女の子だ

夜架の妹・玲奈。彼女は徒手格闘において右に出るものはいないと言われた夜斗と対等に渡り合う技術を持つ



「遅かったなじゃありませんよ。せっかく迎えに来てあげたのになーんでまた巻き込まれるんですか?バカなの?上司を疑うのはよくありませんね…社長はバカです!」


「えぇ…。警備員は?」


「当然呼んであります。どうです?褒めたくなったでしょう?そのまま私と夜を過ごす気になりますよね?」


「ならねぇよ!お前まだ高校生だって自覚ある!?」



玲奈は夜斗の探偵社のバイトだ

高校一年生ながら、事務でも実働でも活躍するという期待の新人

雇うならばいきなり高待遇、などと見込まれている



「大丈夫です我が家の門限は翌日6時なので!それまでに帰してくれれば!はっ、もしかしてもっとやっちゃいます?」


「違うわ!俺を犯罪者にする気か貴様!?」



そんなことを話している間にかけつけた警備員に事情を説明し、帰路につくことができた

車に乗り込むなり、夜架が笑って夜斗に声をかける



「あら、また巻き込まれましたの?」


「故意じゃねぇよ…。澪にしろ真夜にしろ容姿に優れてるからな、どうしても人が寄りついてくる」


「それは、主様の友人の方にも言えることですわね。瑠璃さん、でしたか?」


「ああ…。そういや狙われた理由わかったのか?」


「えぇ、もちろん」



夜架は車を発進させ、事務所に向かう道へと合流した

その段階でようやく話し始める



「要約するのであれば、罪名は身代金目的誘拐未遂ですわ。それと同時に、強制わいせつ罪の疑いもありますわね」


「よし要約するのやめろ、話せ」


「かしこまりました。まず動機については、身代金目的ですわ。調べたところ、瑠璃さんの父は株式投資家で、母は為替取引のトレーダー。金銭目的には十分な動機ですわね」


「確かにな。つかあの娘大好き親父は投資家なのか…」


「年収はざっと一千万ほどですわね。高くて2千万だそうですわよ?」


「わーお…誠実に働くのがバカらしくなる数字だな」



夜斗は助手席に、真夜と澪は後部座席に座っていた

澪は基本的にバス電車通勤のため、車などは使っていない。というより免許がない



「で、後者は?」


「誘拐する前に瑠璃さんを視認したとき、どうしても性的なことをしたいと言ったものが3人ほどいましたの。縛られていたのはそのうちの1人の趣味ですわ」


「よーしあとで闇討ちしたろ」


「2人のうち1人は蹴られたがっていたのでわたくしは近づきませんでしたが、もう1人は玩具を使いたかったと」


「……一応聞くけど4人目はなんか言ってた?」


「一目惚れしたようですわ」


「全員無期懲役を求刑しとくか」



といっても実際に可能かと言われるとほぼ不可能だ

殺人でもない限り、現行法令で無期懲役を勝ち取ることは無理難題に近い



「それで?」


「全員第3刑務所に入れることが確定しておりますわね。懲役については裁判次第ですわ」


「…まさかあの父親に話が行ってる?」


「もちろん。一応まだ保護者が必要な年齢ですわ。とはいえ明日には20歳ですけれど」



夜架は、どうします?とでも言いたげにクスッと笑った

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