第17話

ショッピングセンターは広い

敷地的には北海道の畑レベルだ

もしかしたらアメリカのトウモロコシ畑ほどのサイズがあるかもしれない

そんなことを思いながら夜斗は女性服の店に真夜を連れてきていた



「ここが…?」


「服屋だ。まずはお前の服を買わないとな」



夜斗はそう言って店員を呼びつけた



「店長さんに冬風が来たと伝えていただいてもよろしいですか?」


「あっ、いつもお世話になっております〜。少々お待ちくださいませ!」


「…いつも?」


「妹の服はだいたいここで俺が買ってる。あと、緋月霊斗ってやつの妹の服もここで買わされてる」



やってきた店長は夜斗を見るなり表情が明るくなり、手を上げて駆け寄ってきた



「久しぶりじゃん夜斗!」


「久しぶりだな、みお



彼女は達也と同じく元同級生だ

元を正せば瑠璃の友人なので、夜斗は友人とは思っていない



「今日はその子の服?」


「ああ」


「妹?」


「なわけ。家族構成知ってんだろうがよ」


「姪っ子?」


「妹はまだ未成年だよアホ」



怒涛の勢いに圧倒される真夜

そんな真夜に、澪は少しだけ視線を向けてすぐに夜斗に戻す



「じゃあ、逮捕つかまえたの?」


「正解。この子の服、見繕えるか?」


「とーぜん!元読モのセンスなめないでよ!」



読者モデル。要するに雑誌の会社が雑誌の読者から希望者を選考して雇う、一年契約のモデルだ

澪はそこに2年間在籍し、売上を4倍にしたという伝説の持ち主である



「頼む。私物がほとんどないらしいから、下着などなど込みで。あとなんかアクセサリーでもあればそれをつけていい。予算は20万」


「おっ、太っ腹だねぇ。よゆーよゆー、半額に抑えちゃうよ!おいで、えーと…」


「…真夜」


「了解真夜ちゃん!」



澪は読モであった頃の認知度を利用し、この店を作った

読モのセンスという売り文句で売り始めたこの店は、県内だけでも10店舗を抱える大手チェーン店となっている



「さて…その間俺は暇なわけだが…」



夜斗は服屋を歩き回り、妹と霊斗の妹の服を少し見ることにした



2時間後



「終了!どうよこのセンス!」


「随分と可愛くしたなぁおい。誘拐されかねんぞ」


「そりゃあもう素材がいいからね!服は素材の輝きを底上げするマジックアイテムだもん」


「…かわいい?」


「おう」


「夜斗私にかわいいって言ったことないよねー…」



澪が少しいじけだしたので夜斗はとりあえず撫でておいた

それだけで満足するのだからこの女子も大概である

真夜が今まで着ていたのは古くて緩いセーターとデニムのズボン。どちらもメンズだ

しかし今着ているのはデニムのホットパンツにニーソ、そして前結びの無地シャツだ



「まぁ、素材いいから柄のアクセントガン無視して見せる感じにしてあるよ。アクセも無い方が映えるしねー」



本当にいい素材、と呟いたのを聞かなかったことにして夜斗は真夜に目を向けた

そういったファッション用の服は初めて着るのだろうか。非常に嬉しそうなオーラを漂わせている



(目が虚ろなんじゃねぇんだ。元々感情を表すのが苦手なんだな)



霊斗を思い出しながらフッと笑う夜斗

それを見て自然と笑みを浮かべる澪

真夜は何故2人が笑ったのかわからず、首を傾げている



「気にすんな。澪、上がりは?」


「30分後かなぁ。3人デートする?」


「デートって言うなデートって。真夜を女の子にしてやるんだよ」


「言い方…」


「夜斗さん、私とする?」


「曲解すんな。化粧とかそういうもんだよ」



夜斗はため息混じりに言い、澪の肩を優しく叩いた

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