第16話

「やっほ夜斗、目覚めた?」


「久遠か…。なんとか間に合ったみたいだな」


「ギリギリだよ。今、女の子は事情聴取受けてる。夜斗と一緒にいた子はとりあえず夜斗の家に放置してきたよ」


「そうか」


「舞莉も一緒だから、よほどのことがなきゃ大丈夫かな」


「いい判断だ。その女のところへ連れていけるか?」


「別にいいけど、事務所の留置室にいるからすぐそこだよ?」


「そうなのか。じゃあ行くか」



自宅で目を覚ました夜斗はゆっくりと立ち上がり、嫁ばりの家事能力を誇る久遠が用意した昼食を取る

時折男であることを忘れるほどの腕だ

これも潜入捜査のために鍛え上げたスキルであり、舞莉も同じくらいには料理が得意だ

ただし舞莉の場合、得意であっても好きではないのだが



「たしか、6号室かな」


「了解。万一に備えて警戒態勢を維持」


「りょーかい」



久遠が少し後ろからついてくるのを確認し、夜斗は地下牢の6個目の前で歩を止めた



「お前のような小娘が…」


「はじめまして…?私は、真夜」


「冬風夜斗。ここの社長兼実働だ」


「だから、来てたんだね」


「それは関係ない。引っ越しの手伝いだ」


「そう」



揺らめいているのは作られた感情

とはいえ作るのも使うのも雑で、何故か夜斗は憂いを感じていた



「お前は、養子縁組をしていないと聞いた。そしてさらに、家政婦のような扱いを受けていたとも」


「うん。抜けるために、あの児戯に参加したの。捕まれば、少なくともあんな生活より…」



今度は本物の憂いを醸し出している

目が虚ろなのは相変わらずだが、感情が表情や体の動きに顕著に現れていた



「そんなに嫌か?」


「…うん。牢屋も、慣れた」


「…久遠、鍵を寄越せ」


「え…?釈放するの?どっちみち牢屋行きだよ?」


「どうにかする。久遠は被害者のアフターケアに回れ。舞莉に腕輪を持ってくるように伝えてな」


「りょーかい」



久遠はポケットから取り出した鍵束を夜斗に投げ、その場を離れた

真夜は壁に鎖で繋がれた手錠を眺めている



「少し外に行くか」


「…?」


「ただの気まぐれだ」



夜斗は鍵を開け、少し待った

そして真夜が手錠を自分の手で解錠したのと、舞莉が腕輪を持って来たのはほぼ同時だ



「真夜、腕を出せ」


「ん…」


「これは犯罪者を当社で管理するときにつける腕輪だ。もし再犯するようなら俺の指示で高圧電気を流し込める。くれぐれも俺から離れるなよ」


「りょ」



真夜が静かに言うと、夜斗は舞莉に鍵束の片付けを頼んで出口に向けて歩き出した

通路を歩く途中、目が覚めた男たちが騒ぎ立てたが全く取り立てず、真夜をかばう位置でドアを開く



「少しくらい外で女の子してろ」



夜斗はちょうど帰ってきた黒淵の兄、冥賀に運転を頼み、ショッピングセンターに向かう



「全く人使いの荒い社長ですね…夜斗」


「わりぃわりぃ。けど俺の車遠いからさ、現場以外で使いたくないんだよ」



遠いというよりレンタカー会社にあるため取りに行くのは至難の業だ



「やれやれ…。早めに夜暮が免許とってくれれば僕としても楽なんですがね」


「取りにいけとは言ってるよ?言ってるけどめんどくさがるんだよあのアホ」



冥賀の弟・夜暮は夜斗と同い年だ

しかし大学に行くために免許を取らなかったが故に、今は冥賀が運転を担当することになっている



「とはいえあと2年ほどで出所ですからね、少しは耐えますよ」


「言い方考えろよそれはあかんやろ」


「…誰?」


「ああ…。整備実働を担当する黒淵班の兄だ。俺の従兄でもある」


「年齢的に言うなら僕のほうが上ですが、クビになったところを拾われたのでね」


「…クビ?」


「えぇ。前の会社はいわゆるブラック企業でして、激務に耐えきれず辞める人が多かったんですよ。そこを無理やりプログラムでカバーしていたんですが、どうやらそのプログラムがあれば仕事ができると思っていたらしくクビになりました。本日15時にプログラムが機能を停止し、暴走する予定です」


「元システムエンジニアなんだよ、冥賀は。それも、大学で【鬼才の冥賀】とか呼ばれたくらいに適性が高い」



夜斗は後部座席で真夜の隣にいる

冥賀は無論運転席におり、助手席には何らかの機械が積まれていた

といってもその機械は試験的に作られたものなのだが



「そういえば夜斗、来週の金曜日のことなんですが」


「なんかあったっけ?」


「夜暮が休暇をくださいと言ってました。大学の友人同士で旅行らしいです」


「直接言いに来いって伝えてくれ」


「了解です。さて、つきましたよ。現在地付近で最も巨大なショッピングセンター【レヴァリエ】です」



夜斗は真夜に目を向けた

少しだけ、楽しそうだ

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