第15話

玄関から侵入し、開けられたドアを見る

ドア脇の壁に張り付いて中を覗き込むと、夜斗と瑠璃が縛られてるのが目に入った



(全く社長あの人は…。大人しく私たちの到着を待っててくれればよかったのに)



視点をずらすと、ダイニングテーブルに座る女が見えた

そしてその女の足元では男が4人倒れている



(スタンロッドかな…?私ふっつーに鎮圧用に銃持ってきちゃったけど)



呼吸を整えて銃を両手で構え、窓の外から覗く人物にハンドサインを送る

と同時に女に照準を合わせながら乗り込む



「大人しく手を上げてくれれば撃たないよ」



高めの女声がリビングに響く



、可能な限り撃たないでくださいね。わりと処理めんどくさいので」


「もうちょい兄を敬って!?」



割れた窓から入ってきた少女もまた、銃を構えながら兄たるこの人物に苦言を唱える

金髪ロングの彼は、主に潜入を担当している

名は桜坂久遠。桜坂班の兄だ

対する少女は、同じく潜入を担当する舞莉

桜坂班の妹であり、主にガールズバーの潜入を担当する

そして桜坂流居合の道場にて最も優秀な人物だ



「女の子が二人…?まぁ、いいけど…」



久遠はギターの弦を押さえるかのように指を動かした



(せ ん の う か の う せ い。確かに目が虚ろ過ぎますね)



それはタッピングと呼ばれる暗号だ

夏目探偵社で共通化されているもので、声が出せないときに活用される

ただし、指の動きを読まれてしまうと問題が起きてしまうのがネックだ



(舞莉、お願い)


(了解しました。お兄様は夜斗さんをお願いします)


(了解)



タッピングによる暗号会話により瞬時に役割分担を決め、舞莉が女に近づく



「名前と年齢を教えて下さい」


「…真夜。苗字は、ない。歳は、17」


「孤児ですか?」


「…違う。私は、捨て子。その、男の親に拾われた」


「なるほど…。養子縁組しているんですね?」


「…してない。私、ただの家政婦」



真夜と名乗った少女は立ち上がり、スタンガンを割れた窓から投げ捨てた

そして男を一人踏みつけて舞莉に近づく



「刑務所なら、生きやすい」


「…まさかわざと捕まるために協力したんですか」


「そう。私は、あの生活に耐えられない。なんとか、処女だけは守ってるけど、もう保たないし」


「…なるほど。お兄様、夜斗さんは?」


「まぁ気絶してるだけかな。このまま家につれてったほうがいいかも。女の子は特に何もされてないっぽい」



久遠はそう言いながら舞莉に車の鍵を投げた

ここまで来たのは久遠の運転だ。しかし、夜斗を抱えて移動するためには少し離れた場所に停めた車を持ってくる必要がある



「はぁ…わかりましたよ。真夜さん、ご同行願います」


「うん。やっと、解放される」



真夜は笑った

目は虚ろながら、感情が消えているわけではなさそうだ、などと思いながら

いつの間にか話を聞いていた夜斗はまた意識を失った

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