第14話

翌日、夜斗は実家からの引っ越しを高速で終わらせた

というのも、元々夜斗は服と機械以外は何もないため、服さえ詰め込んでしまえばあとは楽なのだ

最後の機械であるパソコンを運び込んで、夜斗はタオルで汗を拭く



(よし、俺の方は終わりだな。次は瑠璃のやつだが…まだ9時にもなってないな)



とりあえず家の前まで行くことにして、車を発進させる

ちなみに昨日の事件――銀行強盗は、夜風姉弟の強襲により一気に片付き、犯人逮捕となったため現在夜斗の気がかりは午後の依頼以外には何もない



「まぁ起きてないわな。とりあえずLIME送って待つかぁ…」



平日の昼間ということもあって道路の車は殆どおらず、瑠璃以外は仕事や学校で誰もいない

それを知っていて、夜斗は瑠璃の家のドアに手をかけた



(鍵が開いてる…?瑠璃からの返信はないしまだ寝てるだろう…。どういうことだ?)



あえて鍵を開けて行ったのかもしれないが、年頃の乙女を家に残してる状態で鍵を開け放して出るとも思えない

考えられるのは、瑠璃が少し外出しているということと、何かがいるということ



(…武装はスタンロッドしかないぞ…。せめてスタンスピアくらい持っとくべきだったか…!)



夜斗の探偵社では、対暴徒用の武装を開発する部署がある

そこで作られた武装の中に、槍型のスタンロッドがあるのだ



(まぁいい、とりあえず瑠璃がいるかどうかだけでも探査するしかない)



夜斗は車に戻り、脇差サイズのスタンロッドと小さな箱を取り出した

箱の中には、スマホサイズの端末が入っている

そのアームを開くと、それがドローンになった



(飛行探査機Type1、起動…っと)



これも開発部の作品だ

眼鏡型端末にドローンにつけられたカメラからの映像を投影し、指の動きを眼鏡型端末のカメラで読み取って操作できる



(リビング…おっと、早速当たりか)



リビングを映した映像には、縛られた瑠璃と男がいた

ヒョロヒョロした外見で、ナイフを構える手も完全な素人

夏目探偵社の末端社員より構えが荒い



(距離にして瑠璃から2メートル。リビング入口から3メートル、窓から1メートル。位置取りは素人とはいえん。ゲームで学んだのかもな)



夜斗は事務所の放送設備に電話をかけた

外から指示できるよう、電話機から放送設備に直結させ、自動で受話器が上がるようになっている



「第23区画にて一般住宅への押し入り強盗を確認した。桜坂及び霊桜は現場に急行、銃器の携帯を許可する。雪音、桜音は各班のオペレーターとして援護。残りは黒鉄の指示で即座に出動できるように準備しろ」



電話を切り、夜斗は黒鉄たちを待った

一人で飛び込むのは無謀だ。多人数で即座に制圧するほうが危険が少ない

テラス窓側に回った夜斗は、ドローンの映像をモニタリングしながら様子をうかがった



(現状問題無し。とりあえずは突入はなしだな)



携帯電話を確認し、黒鉄と弟の草薙、そして桜坂兄の久遠・妹の舞莉まりからの到着予定時間を見て時計で残り時間を計算する



(着予定28分か。それまで何も起きなればいいが…)



膠着状態は15分ほど続いた

一時的にメガネを外し、数秒おいて装着し直して映像を確認したところ、犯人がナイフを瑠璃に向けて振りかざしていた



(やむを得ん!)


窓をスタンロッドで叩き割り、驚いている犯人を一本背負いで投げ飛ばす

そしてうつ伏せにしてナイフを持った手を背に回し、締め上げてナイフを取り落とさせる



「夜斗…!」


「窓割ったことは後で謝る」


「仲間がいる!」


「何…!?」



夜斗はメガネをかけてドローンを操作した

サーモグラフィフィルターをかけたところ、2階に人がいる



「下の騒ぎに気づかれたら…」


「夜斗逃げて。私がなんとかする」


「問題ない。女一人置いて逃げ出せるもんかよ」



夜斗は階段を降りてくる音に安心しきった男をスタンロッドで気絶させ、とりあげたナイフで瑠璃の縄を切り外に出るよう伝えた

降りてきたのは4人の男たち



(やれるだけやるか)


「どうした柿崎!」


「どーもみなさんお揃いで。柿崎?とやらはここで眠ってるよ」



ネックレス型変声機によって変えられた声は鈍く、つけられた仮面のせいで不審者は夜斗の方だ



「さて、とりあえず君たちにもこの男と同じように眠ってもらおう。私は漱石という名だ、覚えておくといい」



夜斗はスタンロッドの電源を入れてゆっくりと4人に近づいていく

ナイフを出した4人を前に体の力を抜き、重心を落としつつ呼吸を整える

そして重力のままに前に倒れながら地面を蹴り、1人にスタンロッドを振り抜く



「霊桜流歩法空蝉及び桜坂流居合雀蜂」



夜斗が叩きつけたスタンロッドが高圧電気を流し込み、1人を沈黙させる



(残り3人。夜風流剣術サザナミ)



正中線で構えたスタンロッドを、襲いかかってくる男を躱しつつすり抜けざまに触れさせる



「ぎああああああ!!」


「叫ぶ余力があるとはな。はい2人目」



夜斗は足につけていた2本目のスタンロッドを抜き、両手を広げるようにして構える



「黒縁流二刀剣術波紋」



日常であるかのように歩いて近づき、2人の男の間を抜けるその瞬間にそれぞれに一本ずつを当てて電流を流し込む



「終了。大丈夫か?」


「まだ終わってない…!5人いるはずだよ!」


「何…?」



夜斗の首に電撃が走る

振り向くと、女が夜斗の首にスタンガンを押し付けた格好で立っていた



(油断したぜ…)



夜斗は倒れ、意識を失った

女は夜斗を縛り、運び出そうとしたが力が足りていないため持ち上がらない

それどころか1メートルすら動くことはなかった

そして



(現地到着…っと!夜斗の姿が見えないなぁ…。多分捕まったかな?まぁよくわかんないし突撃しようか)



金髪の小柄な人物が、銃を片手に微笑みを浮かべた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る