第13話

夜斗はレストランにくるのはかなり久しぶりだ

社交パーティーとは名ばかりの逆ナンパ日和ではない外食自体が久しぶりなのだが



「なーんか…いつも行く社交パーティーより緊張するんすけど」


「普通いつも行かないから社交パーティーなんて…。別に結婚挨拶じゃないんだからさ」


「付き合ってもないが」


「スルーして」



瑠璃は夜斗より先に中に入った

もはや顔パス、家族が待つという場所へ通される



「じゃあ紹介しようかな。私の父と母。…そして莉琉」


「…夜斗?」


「…。冬風夜斗です」


「私の友人だよ。今後は同居人になるけど」



その場の空気が凍る

莉琉と、瑠璃の父親。2人が発する敵意だ



(おーうマジか。まぁ予測していたけどな。莉琉がいること以外)


「…君が、私の娘の同居人だと…?男と暮らすというのか?」


「そうだよ。気兼ねなく話せる上に、さしたる不安要素もないからね」


「…お姉ちゃん、なんで夜斗なのよ」


「大学近くに部屋を持つのが夜斗しかいないからだよ」



あくまで冷静に対応する瑠璃

夜斗は1度心を落ち着けて、ゆっくりと息を吐き出す



「瑠璃さんに手出しすることはありませんよ」


「私の娘に魅力がないというのか!」


「落ち着いてください、なんかすごいこと口走ってます」



夜斗は完全に予想外の返答をしてきた瑠璃の父に言う

瑠璃の母親は頭に手を当ててため息をついていた。常日頃このような様子なのだろう



「最近では私の洗濯物を一緒に洗うことさえ拒んでいたのに同棲!?どういうことだ!」


「いや彼氏に嫉妬する父親か」


「その通りだ!」


「まだ彼氏ではありません」


「まだ!?つまり娘に未来があるのだな!?」


「いやまぁ俺にも彼女いませんが…」


「ならばよし!娘を幸せにしてやってくれ…!」


「待って待って。そんな関係じゃないからねお父さん」



完全に結婚前の挨拶である

いや、結婚前の挨拶にしては言ってることがおかしいのだが



「同居について私は賛成だ。お母さんは?」


「瑠璃が決めたことなら賛成です。幸せにしてあげてね、夜斗さん」


「なんで既に既成事実を作らせようとしてるんですかあなた方は。そんな無責任じゃないですよ俺」


「冬風夜斗。夏目探偵社の社長であり、「独歩幻想」の作者」


「…!」



瑠璃の父の言葉を聞いて、夜斗の顔つきが変わる

莉琉はそんな父を見て、夜斗を見た

瑠璃もまた夜斗を見る

莉琉も瑠璃も驚きを隠せていない



「独歩幻想の作者様!?」


「おいどうした莉琉」


「こんな身近にいるなんて想像しなかったわ…!妄想はしてたけど、まさか現実になるなんて…!」


「…莉琉は独歩幻想が大好きでね…。ポスターが部屋にあるし、主人公のアクリルキーホルダーが山ほどあるんだよ。本も10冊くらい持ってるし」


「わーおマジのファン。というかお父さんなんで知ってるんですか」


「まだ義父おとうさんと呼ばれる義理はない!」


「…そこじゃないでしょ」



個室で良かったと胸をなでおろす夜斗と瑠璃

莉琉は天井を見上げてフリーズ、瑠璃の母は普通に料理を食べ始めた



「知っている理由は調べたからだ。瑠璃の周囲の男は探偵に調べさせた」


「ああだから黒鉄が簡単な依頼を受けたとかテンション高かったんだな…」



霊桜兄弟の兄を思い出し、少しだけ怒りを覚える夜斗だった



「じゃあ、同居してもいいんだね」


「男に二言はない!瑠璃がそれでいいなら私はいいと思う。莉琉はどうだ」


「今この瞬間に恋愛感情から崇拝に変わったわ。神とひとつ屋根の下は私が保たないからいいと思うわよ」


「満場一致、頑張ってくるといい。瑠璃」


「「何を!?」」



その後、夜斗は夕飯をご馳走になり、瑠璃を送ったあと自宅に戻った

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