第11話
瑠璃の両親は基本的に放任主義だ
金は出すし、悪いことなら叱るが、理由がしっかりしていれば大抵のことは許される
「友人と同居する…?」
「うん。大学の近くに部屋をとった人がいてね、折半する代わりに共同生活をしないか持ちかけられたの。ちょうどよく社会勉強になるだろうし、気心知れてるから受けるつもり」
「いいんじゃないか?月5万口座に入れておくから、よく考えて使いなさい」
「え?べ、別にいらないよ?」
「いいから」
「お父さんはこう言ったら聞かないから…」
母はカウンター越しに会話を聞いていた
莉琉は既に部屋に戻り、課題をやるという
「いつからだ?」
「明後日だね」
「早いな。なら明日は最後の晩餐だ!焼肉行くぞ!」
「最後って…たまには帰ってくるよ」
騒がしい団欒を終え、瑠璃は夜斗に許可が降りた旨を伝えた
翌日。夜斗はレンタカーで大型のバンを借りた
そしてそれを使い、瑠璃の荷物を運び出しに来た
夜斗は仕事を休んで来たため、瑠璃以外誰もいなかった
「とりあえず半分だな。もう載らん」
「このバンに入り切らないなんてね…」
「クローゼットの中身くらいなら入るんじゃね?」
「っ…!そ、それはどうかな…?それに、さすがの私でも夜斗の前で下着を出す度胸はないよ?」
「それもそうか」
夜斗は少し口角を上げ、瑠璃を撫でた
身長差はほとんどない。…とはいえ、10センチほどの差はあるが
瑠璃は思う。この身長差なら、やりやすいこともあると
しかしやりにくいこともあるのも現実だ
(高身長というのも、考えようかな。むしろ私の周りに、私より身長高い男が夜斗と緋月霊斗と
「さて、と…。あと半分は明日だな」
「そうだね。苦労かけるよ」
「問題ない。それよか、莉琉には言ったのか?」
「友人と同居するとは言ったよ。言及されなかったから誰とは言ってないけど」
「まぁ言ったならさしたる問題はないか。む…電話か。少し待ってくれ」
夜斗はスマートフォンにかかってきた電話を取るため、一度廊下に出た
「どうした、
『警告。第三区画にて銀行強盗発生中。警察への通報はなく、銀行内管制制御室からの発報あり』
「マジか。霊桜たちは?」
『現在浮気調査のため愛知県名古屋市に出役中。黒淵兄弟は東京都にて業務を終え、帰宅途中と報告が上がっている』
「黒淵兄弟を向かわせるようメールしといてくれ。あと、他に事務所にいるようなら応援に向かうように伝えて」
『了解。桜坂兄妹、夜風姉弟、黒淵兄弟に出撃命令を発信』
通話を終えた夜斗は瑠璃の部屋に戻った
そこでは何故か、瑠璃が着替えていた
「すまん…」
「急に着替え始めたからね…。まぁ見られても困るものじゃないし、いいよ」
「隠せよ。いや俺が言うのもあれだけど」
下着姿のまま瑠璃は夜斗を見て話す
先程の下着は見せられないという話はどこへやら
その真意は、瑠璃の思惑にある
(少しはこれで意識してくれるといいんだけど…。まぁこの8年で無理であろうとことは察しがつくね)
着替え始めたのはあえてだ
わざと夜斗に見せつければ少しは意識するだろうという思惑と、あわよくば既成事実をと思っていた
しかし夜斗はただ見つめるだけ。何も言わない
「あまりじっくり見られると流石に恥ずかしいかな」
「見ろってことだろこのタイミングの着替えは」
「あながち間違ってないよ」
「あながち間違ってないのか!?」
わざと的はずれなことを言ったつもりの夜斗だったが、瑠璃の返しに驚かされることになる
そしてひとまず瑠璃が着替え終わるのを廊下で待ち、荷物を夜斗の新しい自宅へと運び込むことにした
「ゴーだな。とりあえず到着次第荷物を開いてもらうけど、部屋一つなんだよなぁ」
「特に問題ないと思うよ。クローゼットさえあれば」
「あるぞ。上下2段だからまぁ分けて使えなくもない」
「広さは?」
「だいたい1畳とかだな。タンスとか買うなら寄るぞ」
「そこまで持ち合わせがないよ」
「任せろ」
夜斗は家具屋に向けて進路を変更した
夜斗の新居近くにもあるのだが、そこは嫌がらせのように混む上に出入りがしにくいため実家近くの家具屋に寄ることにしたのだ
「到着、っと。荷室に余裕あるし、ある程度なら変える。あと二段ベッドも買わないと同じ布団で寝ることになるな」
「それはそれでいいと思うよ。私のバイト代入ったら買うって形で」
「まぁそれでもいいか」
2人してひとつ屋根の下どころか同じ布団の中でも気にする素振りはない
合理的と判断すれば、感情を抜きにして決めるためだ
まぁ瑠璃に思惑がないと言えば嘘になるのだが…
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