第10話
「…お姉ちゃん、何してるの?」
「…見てのとおり、膝枕だよ」
「なんで?私、好きな人として紹介するつもりだったのだけれど?」
「そう言われてもね…。私からやったわけじゃなくて、夜斗に頼まれてやってるだけだよ」
尚、2人共に小声である
そのため莉琉は部屋の中程まで入り、瑠璃を問い詰める
「断ればいいじゃないの。私が連れてきたのよ?」
「…それは…」
「お姉ちゃん、夜斗を好きなの?」
「……」
瑠璃に自覚はない
好きという感情を知らないからだ
初恋であろうという予測であっても、確証がない
「そうじゃないなら、なんで膝枕するのよ」
「それは…。わりといつものことだから…」
「ならもうその必要はないわ。私がやる」
「人の頭の上で喧嘩すんな。嫌でも目ぇ覚めるわ」
夜斗があくび混じりに体を起こす
ちなみにこの男、ここまでの会話は全て聞いていた
膝枕される間、本当に寝るということはまずない
実際には瑠璃を堪能しているのだ。本人に自覚がなくとも、脳はそういった処理をしている
「莉琉に関しては、知り合ったのは前でも会ったのは初めてだろ。瑠璃の友人への嫌悪すごいからな、お前」
「っ…!知ってたのね…」
「優秀な情報屋がいてな。月1万円で俺の周囲の人間を精査してくれる」
「よほど私より怖いわね、その情報屋」
「瑠璃とこうして時を過ごすのは1回目じゃない。出会ってから数えて…400回くらいか?」
「そんなにいったかな…?8年前から毎週だから384回だよ」
「細かいな」「細かいわね」
夜斗と莉琉の声が重なる
瑠璃は体を起こそうとする夜斗をささえながら、ベッド下収納から微糖コーヒーを取り出して夜斗に渡した
「いつものやつだよ」
「さすが。莉琉、早とちりしすぎだ。学校でモテるのに彼氏いない理由はわかったけどな」
「そうよ。夜斗…如月が好きだったから、付き合う気にならなかったの。間に何人か挟んでも、大した魅力は感じなかったわ」
夜斗の眉がピクッと動いた
瑠璃はその気配を感じ取り、夜斗の手に自分の手を重ねる
「抑えて。深呼吸」
「すまん。莉琉、俺にこだわるな。見てわかるとおり、如月というユーザーからかけ離れている」
「そうかしら?私、人の性格を見抜くことに定評があるけれど、大差ないわよ」
そもそも夜斗は、SNSをあまり多用しない
殆ど睦月――莉琉が話しかけてくるのに対応するだけだった
「そうか…。ともかく様子見だ。よくあるだろ、お友達から…って」
「そうね。なら、惚れさせるわ。お姉ちゃんのことを忘れるくらいに」
「やれるもんならな」
夜斗はクスッと笑った莉琉が部屋から出るのを見送り、瑠璃の肩に手を添えて一緒にベッドに倒れる
「わわわ…!」
「そう慌てるな。襲うわけじゃないんだから」
「そこまでの度胸は期待してないよ」
「散々だな。つか期待すんなよ警戒しろ」
「あ…言葉選びを間違えたね」
瑠璃は施錠されたクローゼットにちらっと目を向けた
中のものを出すことにしたのだが、しまう場所がないのだ
(バイト代で耐火性金庫を買おうかな。使わなすぎて100万円くらいあるし、上々なものが買えるはずだし)
「このまま寝たい…」
「寝てもいいけど起こさないよ?」
「明日から一人暮らしだし別にいいんだけど」
「…引っ越すの?」
「転勤でな。とりあえず霊斗と天音も俺の家の近くに部屋を取るらしいから暇は潰せる」
完全に乗り込む気の夜斗である
2人で一部屋を借り、金銭面は折半するらしいがはたしていつまで持つのか…と夜斗は内心不安だ
「どこに…?」
「三島だ三島。通うのめんどいから事務所の近くに借りたんだよ」
「ちなみに駅前?」
「三島駅南口。1LDKという贅沢さで諭吉さん5枚いかないくらいで済む」
「安いね、わりと。私も大学近くにホテルができて楽になるし」
夜斗は現状実家暮らし。そこは瑠璃も同じだ
しかし夜斗は社会人。つまり給料がある
そのため、ある程度好き放題なのだ
「泊まりきても服とかねぇぞ」
「なら共に住むのはどうかな?私、わりと家事は得意だよ。それに家賃とかも折半で済むし」
「男とひとつ屋根の下だぞ?普通誘われても嫌がるだろ」
「合理的だからね。実家を出てみたいけど、金銭面の問題があるんだよ。夜斗さえ良ければ、ね?」
「別にいいけど、ほんとにくるのか?本当にくるなら管理人に言っておかないと鍵がない」
「行くよ。親は止めないだろうしね」
瑠璃はそう言って笑った
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