第9話

喫茶店にて、いわゆるネトモと初めて対面した夜斗

相手は睦月と名乗る人で、瑠璃の妹だった



(うん、まとめてみてもよくわかんねぇ)


「どうしたのよ、如月」


「いや…どこで俺を知ったんだ?」


「きっかけは貴方がよく話していた蒼牙とかいう人よ。話し方からリア友なのはわかっていたし、正体を調べるのに時間はかからなかったわ。緋月霊斗がリアルでよく話すのは貴方か天音って人か桃香って子。だから特定はわりと容易かったわね」


「こっわ…。まぁそれはいいにしても、よく会おうと思ったな」


「好きな人に会うことに躊躇いはないわ」


「…はい?」



睦月こと莉琉は夜斗の目を見てそう言い放つ

突然の告白に戸惑う夜斗



「148日よ、如月」


「…?」


「私と貴方が出会ってから、148日経過したわ。その中で私が貴方を忘れることはなかった。だからこうして、会うことができたのよ」


「おうそれがなんで今告白に繋がった?」


「忘れなかった理由は、私が貴方を好きになったから。睦月というアカウントを好きな人はみんな、私を知って離れていったわ。残ったのは貴方と、体目当てのバカばかり。だから貴方により惹かれたのよ」



莉琉はそういって夜斗の隣に座り、密着した

夜斗の手をとって自分の胸に触れさせる



「な何を…!?」


「感じるでしょう?私の胸の鼓動。貴方といるときだけは、こんなにも早く心臓が脈打つの。貴方がいたから私は恋を知って、貴方のために生きようと思えたわ」


「…睦月…」


「名乗らなかったわね。私は莉琉。瑠璃は私の姉よ、一応」


「冬風夜斗。如月の中の人だ」



至近距離で見つめ合う2人

若い女性店員が、カウンターの奥で何かを小声で話している

はたからみれば初々しいカップルだ。しかしその実は片思い

そもそも夜斗は恋愛に興味がないのだ



「とりあえず初回エンカウントとしてはこんなところかしら。私の家に来てほしいんだけど、来れる?」


「まぁ行けるけど…」


「瑠璃と母に紹介するわ。好きな人です、って。付き合ってないけど今後結婚するから、って」


「気が早いにもほどがある!」



夜斗はため息を付きながら立ち上がり、みせをでた

先払いのため会計については問題ない。駐車場に停めた車の鍵を開けて乗り込み、莉琉が乗り込むのを待った

莉琉がシートベルトを締めたのを確認して、夜斗の記憶にある瑠璃の家に向かって車を発進させる



「2日連続で姉妹を乗せることになるとは…」


「お姉ちゃんとどこ行ったのよ」


「箱根。あと小田原」


「何が楽しいの?」


「行くことがいい。毎週行ってるしな、霊斗と」


「よく付き合ってくれるわね」


「そうだな」



到着し、駐車場に車を入れる夜斗

そんな夜斗を、自室の窓から見下ろす瑠璃

そして、出てきた莉琉を見て体の力が抜けた



(莉琉…?)



想定外の事態に脳の処理が追いついていない

莉琉は夜斗と会うと言っていた。しかしその理由を、話があるとしか言っていない

つまるところ、瑠璃は莉琉が夜斗と会うことを想定していなかった

瑠璃はこれが初恋。失恋の経験はない

それ故に、一層不可解な感情に頭を悩ませた



(この感情は…?過去の同状況…履歴になし、同じような感情を精査…。これは…殺意…?いや、殺意とはまた違う…。これが、嫉妬…?)


「邪魔するぞ瑠璃」


「っ!い、いらっしゃい。莉琉と一緒だったんだね」



瑠璃は声や顔、体に感情がでないようあくまでも冷静に対応しようとした

しかし震えだけは思うように治まらず、細く白い指先が小刻みに揺れる



「どうした?」


「う、ううん。莉琉と付き合い始めたの?」


「いや…。SNSでよく話していた睦月っていうのが莉琉だったんだよ。前話しただろ?」


「あ、ああ…。性別不詳の友人、だっけ?」


「そうそれ。思ったより近くにいたよ」



夜斗はいつものように瑠璃のベッドに座り、窓際に立つ瑠璃に手招きした

言われるがままに夜斗の隣に腰を下ろす瑠璃。次の瞬間、夜斗は瑠璃の腿に頭を乗せた



「よし」


「よしじゃないよ?急すぎて私は全く状況が掴めないよ?」


「眠いから寝る。人間の摂理だ」


「私の膝枕っていうところが掴めてないよ?」


「気にするな」



瑠璃は言葉とは裏腹に歓喜に満ち溢れていた

今までには、夜斗どころか誰にもやったことのない膝枕

最初が初恋の人となれば、歓喜するのも無理はない



(さて、莉琉をどうしたものか…。私が諌めるのは簡単だけど、それは恋敵ですって名乗りあげるようなものだし…)



既に寝息を立て始めた夜斗を撫でながら、瑠璃は深い思考に突入する

幾度となく訪れた、夜斗が自分を好きなのではないか?という葛藤も、可能性はないと割り切るまでに時間がかからなくなっていた



(体つき以外、女でもないしね…私。胸だけは莉琉に負けてないし、理系科目の点数も負けない。ただ、容姿は…。本当に双子なのかな私たち)



と言うが、容姿も特段悪いわけではない

莉琉は高飛車な性格が何故か人気を催し、高校・大学での人気者だ

しかし瑠璃は、容姿は優れておりながら理系故の理論派

告白してきた男子のことごとくを、メリットがないの一言で片付けてしまうのだ



「お姉ちゃん、今いい?」



修羅場、襲来

その言葉が瑠璃の頭を駆け巡った

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