第8話

翌日。夜斗は携帯電話を確認し、慌てて入力したと思われるメッセージを見た

そしてそれに合わせるため、残り時間を確認する



(あれ、見間違いじゃなければもう12時半か?)



2度見、3度見を重ねても時間は変わらない

そして時間がずれてる可能性についても精査したが、電波が狂わない限りこの時計の時間がずれることは有り得ない



(よし、ゴーだな。とりあえず紗奈を駅に送らなきゃいけない。って集合も駅か)



夜斗は車の鍵と財布、携帯電話を持って部屋を出た

ソファーで座って夜斗を待っていた妹、紗奈さなに声をかける

紗奈は大学生だ。それも、瑠璃の後輩 にあたる



「紗奈」


「はい、お兄様」



紗奈は物理法則を無視したかのようななめらかな動きで立ち上がり、カバンを拾い上げて玄関に向かった

紗奈は学年的には夜斗の1つ下だ

実際には、夜斗が生まれた3ヶ月後に生まれているためほぼ差はない



「駅でいいんだっけ?」


「はい、駅に送っていただければそのまま電車で向かいます」


「あまり羽目を外すなよ?あとこれは土産代だ、持っとけ」



夜斗は3万円を紗奈のポケットにねじ込み、車に乗り込んだ

紗奈は今から静岡県浜松市にいる友人と映画を見に行くという

そのため、夜斗は可能な限り金銭がかからないよう駅までは送ることにしたのだ



「お兄様、瑠璃先輩になにかしましたか?」


「何もしてないな。強いて言うなら、昨日パーカーをくれてやったけど」


「なんでですか?」


「イルカショー見に行ったらあいつだけ的確にずぶ濡れになって、とりあえず体を拭かせてパーカー貸したんだよ。飼育員が下着はくれたって言ってた」


「ではお兄様は、瑠璃さんの下着を服越しにみたんですね」


「言い方酷いな。見せつけられた、の間違いだ」



夜斗は、瑠璃が聞いたら文句の一つでもいいそうなことを言いながら車をすすめる

そして駅前に到着し、2人は車を降りた



「紗奈、いってらっしゃい」


「いってきます、お兄様」



紗奈は笑顔で改札から駅ホームに向かって行った

時刻は待ち合わせの5分前。北口ということだったから間違いはない



(いや俺その妹の顔知らねぇし)



夜斗はかかってきた電話を見て眉をひそめた

それは、夜斗がSNSで繋がった人だ。時として急に電話をかけてくる



「もしもーし」


『…やっぱり。久しぶりね、如月』


「睦月か。暇人め、俺は人待ちだから長くは電話できんぞ」


『その人を待つ必要はないわ。だって』



夜斗の目の前に女の人が立ち止まった

ロングスカートでお淑やかな佇まいで携帯電話を手にした、黒髪の美少女



「『私が瑠璃の妹だから』」


「ええええええええ!!?」



夜斗の絶叫が駅前広場にこだまし、近くを歩いていた鳩を驚かせた

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