理系女子の想いと安寧
第7話
瑠璃は自室で、壁に打ち込んだ釘にかけた服を眺めた
夜斗のパーカーと、夜斗が選んだ服だ
あのあと瑠璃は、夜斗のパーカーで自宅に帰りすぐに風呂を済ませ、今に至る
現在は、ちょうど夜斗が天音と合流した時刻だ
(それにしても、夜斗がこれを選ぶなんてね)
その服は―――猫耳パーカーとスカート
瑠璃がちょっと気になっていた服である
とはいえこれは夜斗が、見てみたいという欲望のままに購入したものだ
(そして、夜斗のパーカー。返すのが惜しい)
夜斗のパーカーを取り、ベッドに乗せた
そして自分もベッドに乗り、夜斗のパーカーに顔を伏せる
(いい匂いがする…夜斗の匂い…。普段は嗅ぐことのない貴重な匂い…)
足をバタバタさせながら、瑠璃はパーカーを抱きしめる
お察しの通り、瑠璃は夜斗に恋している
それもストーカーレベルに強大な愛だ
(ああ…直接嗅ぎたい…!夜斗に抱きしめられながら眠りにつきたい…!)
よもやこの様子を見た者は目を擦り、もう一度見ることだろう
理系大学の特別待遇の資格を持つ主席美少女が、実はこうも変態的だとは誰も思わないことだろう
しかし瑠璃はこれが普通だと認識している。人間誰しも、自分を正常とする僻があるものだ
「お姉ちゃん、今いい?」
「っ!な、なに?」
ドアの前に立つ妹の声に、瑠璃は平静を取り戻した
ベッドに座り直し、遠隔操作で部屋の鍵を開ける
「
「そう…?どっちかというとお姉ちゃんが無視してるだけよ?」
「あれ私そんな薄情だっけ…」
妹の莉琉は双子だ
といっても、胎児段階で双子だったのだが誕生日は1日違い
ごく僅かな数分の誤差で、2人は双子とは呼べなくなった
「で、どうしたの?」
「お姉ちゃん、確か冬風夜斗の同級生だったよね?」
「…まぁね。高校では離れてしまったけど、中学時代は3年間同じクラスで隣の席だった」
「そう。会わせてくれない?聞きたいことがあって」
「……私経由で良ければ聞いとくよ?」
「大丈夫よ、直接聞くから。お姉ちゃんが嫌なら諦めるわ」
まさか身近に恋敵が、と警戒する瑠璃
とはいえ莉琉の目に敵意はない。瑠璃が夜斗を好いていることを知らないだけかもしれないが
「構わないけど、夜斗が会ってくれるかはわからないよ?夜斗は気まぐれだし」
「わかったわ。空いてる日を聞いてくれれば私が予定合わせる」
「了解。まぁ、あまり期待せずに待ってて」
瑠璃は莉琉が部屋を出たあと、大きくため息をついた
そして咄嗟に隠した夜斗のパーカーを羽織り、ビデオ通話を起動する
『おう』
「夜斗、少しいいかな」
『なんだ?ってそのパーカー俺のやつか。まぁいいや、言ってみ』
「空いてる日があれば、妹に会ってほしいんだけどどうかな?」
『家族への紹介か。付き合う前にやるのはいささか気が早いだろう』
「違うよ!?妹が聞きたいことがあるって言うから」
『…ふむ。接点はないはずだが…逆に興味が出てきたな。明日は空いてるが、来週はわからんな』
「伝えてみるよ」
『おう。あとパーカーやるよ。新しいの買ったし、それ若干小さいからな。緩めのパーカーって中々女子に似合う』
「萌え袖とかいうやつかな?」
『まぁそういうのだろうな。なんで可愛く見えるかは知らん』
「そればっかりは科学じゃないし知らないかな。軽く調べておくよ」
『俺も調べとくかな。つかあれだ、お前の妹ちゃんに時間と場所聞いといてくれ』
「了解、細かいことはメッセで送るよ」
『おう』
通話を切り、瑠璃は莉琉の部屋を訪れた
そして壁面に貼られた数枚のポスターに眉をひそめる
「これは…」
「あ、お姉ちゃん。どうだった?」
「明日なら空いてるって言ってたよ。時間と場所を聞くように言われてきた。のはいいとしてこれは…?」
「13時に駅って伝えておいて。あとこのポスターは最近私がハマってるアニメのものよ。主人公は死神なんだけど、自分への好意に気づかないけど友人が向けられてる好意に敏感なのよ。で、後輩の一人がヤンデレで暴走したのを隠蔽したりとか説明面倒くさいから読んで」
莉琉は本棚を指差した
10冊ほど同じ本が瑠璃を見ている
「これは…」
「読書用、観賞用、保存用、布教用よ。一冊あげるわ、明日感想聞く」
「えぇ…」
そこから1時間、莉琉の話に付き合った瑠璃は、夜斗にメッセージを送るのを忘れて眠りについた
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