第6話
車に戻った2人
瑠璃は変わらず隠すために裾を掴んだままで、夜斗は瑠璃の腿付近を見ないように気を払っていた
時刻は17時。ちょうど江ノ島水族館が閉園する時間だ
国道を今度は西に走り、自宅に近づくルートを選ぶ
「ぶっちゃけ湯河原行って大観山通るルートでもいいんだけど、グネグネしすぎて多分酔う」
「だろうね…。小田原から箱根新道に乗ったほうが安定するんじゃないかな」
「そんな気がする」
夜斗は小田原に戻ったところで進む道を変え、箱根新道という旧道に比べたら比較的カーブが少ない道を使った
そしてようやく、静岡県に戻ることができたのだ
「あと1時間くらいで到着だ」
「そうだね…。随分と短く感じたよ」
「たしかにな。どっか寄るか?服屋以外で」
「特にはないかな」
「ういよ」
夜斗は服飾店ウニクロに向けて車を進めていく
到着したウニクロは、性別年齢問わずに親しまれる服屋
瑠璃を車に残し、夜斗は店に入る
(似合いそうな服か。センスゼロなんだよな俺)
夜斗は女性服コーナーで思考を広げた
瑠璃の姿と服を照合し、粗方候補を絞っていく
(とりあえずこれかこれかこれだな。普段よく着てる感じのロングパーカーとTシャツとデニムパンツセット、ただのワンピース、そしてスカートニーソ猫耳パーカー。いや、答えは一つだなこの選択肢なら)
迷いなく3つを手に取り、色だけ合わせてかごに放り込む
そして会計に向かい、包装を頼んだ
「彼女(恋人)さんへのプレゼントですか~?」
「そうですね、彼女(友達)へのプレゼントです」
日本語とは難しいものである
夜斗は受け取った袋を手に車に戻った
「瑠璃」
「夜斗…。ちょうどよかったよ、助けてくれない?」
瑠璃は窓から手を突っ込んだ男を指差しながら言う
どうやらドアの鍵を開けようとした男の腕を挟んで捕らえたらしい
「そうだな。じゃ、出発するぞ」
「しょ、正気か!?腕ちぎれるだろ!」
「瑠璃に手を出そうとした時点でもう首から上がなくなるのは覚悟してもらわないと」
「未遂で死が確定!?実行したらどうなるんだよ!」
「まぁ…アイアンメイデン」
夜斗は窓を開けて男を開放してやり、瑠璃を撫でた
「服装的に誘ってると思われたらしくてね。襲おうと思ったらしい」
「ああ、警察行くか」
「証拠音声・映像はバッチリだよ」
2人は黒い笑みを浮かべ、警察署へと向かった
「よう、天音。生きてるか?」
「生きてると思うー?霊くんがバックにいたけどワンオペで強盗なんてついてないなー私…」
天音はバイト先の駐車場に停められた夜斗の車の前でそう愚痴った
今日、天音と霊斗が働くコンビニには強盗が押し入り、レジ担当の天音に金を要求したらしい
そしてさらには誘拐されそうになったところを、監視カメラで見ていた霊斗がガスガンで撃ち抜き捕らえることに成功したという
(あいつなんで持ち込んでんだよ)
(かばんから出し忘れたんだよ)
(こいつ直接脳内に!?)
霊斗からの思念を感じた夜斗だったが、ただの気のせいである
「まぁいい…。つかどこ行きゃいいんだ?」
「とりあえず夕飯かなぁ。予約してあるから、すっと行けるよ」
「そうかい…。どこだ」
「あのへん」
「わかるかぁ!」
夜斗は駅前通りに向かい、天音の視線だけで道を進み目的地に到着する
そこは高級感あふれるホテルの1階。洋食レストランだ
「ここここ。さっすがぁ」
「お前ともまぁまぁ長いからな…。それに…」
「それに?」
「高校終わったばかりの俺らが予約取れる店なんて、霊斗の従姉の店しかねぇだろ…」
霊斗の従姉、レインが入口で手を振っているのを見て、夜斗はため息をついた
「で、なんで鏡花と
咳に連れて行かれた夜斗は、四人用テーブルで待っていたかつての後輩に目を向けた
和泉鏡花。そして
夜斗が中学2年生の頃、吹奏楽部の新入生として入ってきた2人だった
正直なところ、夜斗はこの2人以外の後輩は顔どころか名前さえ記憶にない
「呼ばれた。天音先輩に」
「同じく天音先輩に呼び出されました。土曜日の夜遅くなのに」
「嫌味っぽく言わないでよ美羽ちゃん…。バラすよ?」
「ごめんなさい緋月先輩にはバラしてないのになんの躊躇いもなくバラそうとする天音先輩」
「ごめんて」
「…なんの会だこれ」
「続!霊くんが振り向いてくれる方法を探そうの会〜ゲスト2名を添えて〜かな!」
「鏡花、美羽。マックでいいか?奢ってやろう」
「夜斗先輩のお誘いとあらば行かざるを得ませんね」
「うん。やーくん、大事」
「ねぇぇえぇぇぇぇ!!」
天音の声に座り直す3人
というのも、これは既に5回は行われている恋愛相談なのだ
天音が好きな人というのは夜斗の親友である霊斗なのだが、全くと言っていいほど気づかない
(鈍感だなあのあほ)
「夜斗、今鈍感とか思ったでしょ?超巨大ブーメランだからね」
「勘がいいな。霊斗への押しは小指で触ってるくらいの強さなのに」
「うぅ…。だ、だって嫌われるの嫌だもん!」
「そういうのは女子同士でやれよ」
夜斗は目の前に置かれたピザを眺め、天音を見た
食うなら手伝え、と目が語っている
夜斗はさんざん悩んだ挙げ句、大量のチーズが乗ったピザを一口食べた
「でね夜斗。聞いてほしいの。霊くん、まだ彼女ほしいって言ってるの。こんな近くに美少女がいるのに!」
「自分で美少女って言うなよ。まぁ確かに黙ってりゃそうか」
「この性格ありきの可愛さだから!」
「天音先輩、もう少しお淑やかにしてください。周囲の目が怖いです」
「う…ごめん。でさ夜斗、今回もまた霊くんの情報売ってくれない?高く買うよ」
「一文字百円」
「1万文字」
「百万円まいどー。ってあほ、そんなにないわ。霊斗が好きな人の情報だ」
夜斗はワイン…に似せた味のする飲み物を飲んだ
ノンアルコールのため、このあとの運転に支障はない
「買う!1文字1000円!」
「黒髪美少女。いつも霊斗に這い寄る混沌。あいつに言わせればそいつ以外に興味がなくて、他の人はオブジェクトなんだとよ」
「今のだけで5万超えましたね…」
「霊くんの近くにいる女の子…。私と
「カオスだな。社長令嬢でかつ家事能力が異常に高く、それでいて見た目も悪くない。口調さえ女の子ならモテてもおかしかないわな」
時雨というのは、現代の財閥と呼ばれる黒桜家の令嬢だ
常に送迎がつくのだが、それでも歩かせろと言って黒服の男を困らせるワガママガールである
ただし男勝りな口調で、同級生に言い寄られることはなかった
「じゃあ時雨ちゃんなのかなぁ…」
「それは本人に聞け。よし、帰るか」
「天音先輩終わったなら私いいですか?」
「美羽が相談なんて珍しいな」
「可及的かつ速やかに答えを欲する場合、夜斗先輩に聞くのが早いので」
「ほう。いいだろう」
夜斗はノンアルコールワインを追加し、対角線上に座る美羽に目を向ける
ちなみに正面が天音で隣に鏡花が座っている
「私と鏡花、好きな人同じなんですけど、私は友情と恋愛どっちを取るべきですか?」
「究極の二択だな。それは重きを置く方による。例えば俺は、霊斗が好きな人を好きになったら身を引くし、あいつはそれに気づかないだろう。けど天音は、例えば
故に、と夜斗は続けた
天音にはその答えの意味がわかった。しかし、美羽と鏡花にわかったかは定かではない
「これを相談するときには答えが出ているはずだ。それに、愛情の成立とは友情の崩壊ではないしな」
そういって夜斗は美羽に向けて笑い、鏡花を撫でた
2人が同じ悩みを持つことを知っていたから
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