第3話
小田原城に行くことが突発的に決まり、中に入ることになった
小田原城の中は博物館のように刀や鎧が展示されている
刀のコーナーで瑠璃はゆっくり眺めながら話し始めた
「そういえば、観賞用の刀で人を斬ったり、人斬り用の刀を飾っておくと呪われる…なんて話があるね」
「そんなんあるのか」
「まぁこれに関してはただのオカルトだから私の専門外だよ。実際、江戸時代の呪いは人間の脳構造に基づくものだと証明されているしね」
「プラシーボ効果のことか。それとはまた別じゃね?」
「さぁ?呪いなんて眉唾ものに騙されるのは、今も昔もこれからも変わらないよ」
瑠璃はそう言って夜斗を見た
夜斗は夜斗で刀を眺めている
「なんて読むのこれ」
「
「よく知ってんなオイ。理系だけじゃないのか」
「何となくね」
というのは嘘で、夜斗が刀好きなのを知って調べたのだ
とはいえそれを話す気はないようだが
「電話…?」
「出たほうがいいんじゃない?」
「仕方ない、出てやるか」
夜斗は通話ができる時計を愛用している
それにて応答するのが基本なのだが、常にスピーカーモードという暴挙に出ているということになる
室内から出て、景色が一望できる天守閣のベランダのような場所で応答する
「俺だ」
『もっしもーし。今オッケー?』
「構わんぞ、天音。どうした?」
『ちょっと野暮用…というかバイトのシフト伸びちゃってさ、集合時間2時間遅らせたいの。都合いい?』
「ああ、ちょうど連絡しようとしてたんだ」
『おりょ?デート?なわけないかー』
「デート…なのか?」
「そうなるのかな?」
『その声…瑠璃ちゃん!?進展あり!?』
「し、してない!っていうか言わないで!」
「進展…?なんかあんのか?」
「な、何もない!気にしたら骨折るよ!緋月霊斗の!!」
「お、おう…。なんで霊斗のを折るんだ…」
『なんで俺の折るんだよ瑠璃さん!』
『あれ?霊くん休憩?』
『ああ。後ろにいたぞ。つか夜斗、お前よく刺されてないな』
「ブーメラン乙」
『どっちもだよおバカ』
「うっさいヘタレ」
『あーあー聞こえなーい!じゃそゆことでよろしくね夜斗!』
「ういよ」
騒がしい電話を終え、夜斗と瑠璃は城内に戻った
瑠璃は何故か、夜斗を見ようとしない
「どうした、瑠璃」
「な、なんでもない。デートではない…そう、デートじゃないんだ…」
自己暗示を始めた瑠璃をしばらく見ていた夜斗だったが、背後に感じた気配に振り向く
そこには何もない。強いて言うなら、小田原城の紹介映像を見る老夫婦がいるだけだ
(気のせいか)
「さ、さて…次どこにいこうか?」
「予定は未定だ。2時間余裕ができたということは、20時まで時間があるな。鎌倉でも行くか?」
「ちょっと遠いね…。戻るに時間がいるよ。いくなら江ノ島とかどうかな?」
「水族館か。生命の神秘を見れる場所だな」
「進化の軌跡も見れるね」
少し観点が普通と異なる2人である
霊斗や天音はわりとロマンチストであり、見たものに感動する素直さがあるのだが、2人にはそれがない
2人はわりと見たものに至るまでを想像し、感動するというある意味ではひねくれた感性を持つ
「さて、ゴーだな。気持ちのんびり行くか」
夜斗は瑠璃が助手席でシートベルトをしたのを確認して運転を再開し、国道に戻った
そしてまた東へと車をすすめる
「そういえば夜斗。その…か、彼女はできたの?」
「できるわきゃないだろ。学生ならまだ可能性が0.1%ほどあったけど、俺の仕事だと女性にはあまりいい印象を与えない。それに女性が俺を好きになることはまずありえないしな」
「そ、そんなことはない!少なくとも、私は夜斗を…」
「俺を…?」
「うっ…。よ、夜斗を好きな人を知ってる」
「よしじゃあその人にあることないこと伝えとけ」
「な、なんでそんなに恋愛を拒むの?」
「……もう懲り懲りなんだよ。傷つけるのも、傷つけられるのも。それに…」
言葉の続きを待つ瑠璃
夜斗は本当に小さな、瑠璃にギリギリ聞こえる程度の声で呟いた
「夜に光は射さない」
夜斗は自分の過去や性格を、夜と言った
瑠璃の想いとは裏腹の言葉だった
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