参・蠱毒

殺し合いの果てにあったのは、

生き抜いた達成感でも充足感でもなかった


あれほど“生きたい”と望んだのに

“死にたくない”と願ったのに


  生き延びてしまった


殺し合いの果てに得たのは

死に損なった後悔だった


浴びた血の量だけ

奪った命の数だけ

削り落とされた魂が

穴埋めのように継ぎ足された罪で

濁り、黒ずみ、

重く圧し掛かる

そんな、

不自由な、無様な、醜悪な、

肉体が残されただけだった


 騙されるより騙すほうが良い


いつだったか誰かの言った科白が思い出された

そんなのは偽善だと、自身は見下したのではなかったか


偽善ではなかった

それは利己だった

騙した後に味わう気分より、

騙されたと知って味わう気持ちの方が、

幾分かましだと知っている者の利己的判断に過ぎなかった


つまりは事実だったのだ

どうしてそれを自身は見下し、嘲り笑ったりしたのだろう

愚かだった

無知だった

浅はかだった


気づいたところでもう遅い

嘲笑は過ぎた出来事

奪った命ももう……


戻れない道ならば

歩み続けるより仕方がない


ほふ

屠れ


屠るごとに削られるこの魂が無に帰して

ただ罪の塊と化すまで――





まったく、貴方は残酷な人だ。

蠱毒こどくをヒトに用いるとは。


ええ、おっしゃる通りです。

確かに似たようなことは武術でも行われる。

仕合しあいというものですね。

ですが何も殺すまですることはない。

強さを求めるなら、勝敗を決めるだけで十分だ。


他者を屠ったからと言って、

それで強さが増すわけでもないでしょう。

単に強いものが勝ち、生き残る。

おし進めれば、やがては最も強い者だけが生き残る。

それだけのことなのでしょうに。


殺し合いは選別の手段に過ぎない。

ならば殺さぬ仕合で済ませることもできるはずです。

それを貴方は……。


どうしてそう残酷なことがお好きなのでしょうか。

呪術を扱う者はみな、どこか気が触れておるようだ。

武術を引き合いに出しては武道者が憤りましょう。


私ですか?


私はただ、通りすがりの呪殺者ですよ。

より弱い者を屠りに来たのです。





人を呪わば穴二つ

毒を喰らわば皿まで


蠱毒の術を為す者は

毒の餌食となるさだめ


蠱毒を自在に用いたいならば

けして欲を出してはならぬ


むしがよい


蟲に留めよ


呪術に携わる者は

言葉を軽んじてはならぬ

言霊を軽んじてはならぬ


同様に、

字というものにも、

ようよう注意を払わなければ


蠱毒は蟲であるから丁度よい

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