後輩とトンカツ

四限目終了の鐘がなり、午前の授業が全て終わる。直後、俺は教室から飛び出るために走り出す。傍から見ると頭のおかしい行動だが、校内放送されるよりはマシだと思いたい。

勢いよく扉を開け、教室から走り出るとドン!と誰かにぶつかった。見ると、女子生徒のようだ。


「ってててて……。」

「すみません!よく見てなかったです。大丈夫…です……か………」


よく見ると俺がぶつかった女子生徒は陽姫だった。

なんで陽姫がここにいるんだよ!?明らかに早すぎない!?どう頑張ってもお前の教室から三分以上掛かるぞ!?


「んもー!先輩、早く私と会いたかったのは分かりますが、ちゃんと前見て走って下さいよー!」

「いや!陽姫、はや過ぎない?授業抜け出してきたの?」

「いいえ?チャイムがなるまでちゃんと座ってましたよ?愛は時空を超えるって本当になんですね!♡」


何それ、聞いた事ないんだけど。時空を捻じ曲げるの間違いじゃないの?


「じゃ!先輩、早く行きましょう!!食堂のいい席取られちゃいますよ?」

「ああもう、今日だけだよ?」

「明日も逃がしませんからね?」


と、陽姫は熱視線の目を向けてくる。いや怖すぎるんだけど……。明日は保健室で一日過ごそうかな。


明日の算段を考えていると、あっという間に食堂に着く。

人って夢中になると時間が早く感じるよね?


「先輩!何食べます?」

「んー、どうしよっかなー。」

「色々あるんですねー、」

「ここは結構種類多いよー。陽姫使ったことない?」

「はい、ほとんど教室で弁当を食べてましたので。あ、私トンカツにしますね」

「じゃ、俺はキツネうどんにしようかな」


日替わりも捨て難いが、今日の日替わりはカレーだったためうどんにした。

二日連続のカレーはさすがにきついからな。


食べる物を選び、俺たちはカウンターみたいな場所にお盆を持っていく。

まだ早すぎるためか人もほぼ来てない。


それぞれ、トンカツとキツネうどんを持ち一番人気の窓側の席に座る。


「先輩!一番いい席取れましたね!!」

「うん、はじめて初めてここに座ったけど結構景色がいいんだね」

「せっかくなのでお冷で乾杯しません?」

「しないよ、なんで学校でそんな小っ恥ずかしいことしなきゃいけないんだ。」

「ブー、先輩のいけず〜。

あ、先輩!アレ見て下さい!!」


と、興奮気味に陽姫が外を指さす。

視線をまどの外に向けるが特段変わった事もないように見える。うん、よく探したが何も見つからない。


「ごめん、陽姫。どれ?何も見えないや」


と、陽姫に向き直るとなんと俺のうどんを食ってやがった。


「何してんの?それ俺の昼飯なんだけど?」

「いやー、なんかトンカツ食べてると炭水化物が欲しいなって思って、そしたら先輩が美味しそうにうどんを啜ってたのでつい!」


ついじゃないわ!!!


「そんな理由で人の物を食うな」

「えー、いいじゃないですか。あ、先輩も私のトンカツ食べたいですか?」


そう言いながらトンカツを一切れ頬張る。しばらく咀嚼すると美味しそうに「ンー!」と悶える。

なんか、めっちゃ食べたくなってきた。


「ほら、先輩。いるんですか?いらないんですか?さっさと決めないと全部食べちゃいますよ?」

「……、いる」

「じゃー、なんて言うんですか?」


陽姫はイタズラをする子供のような顔になっている。ここで素直に欲しいって言ったらやっぱり弄られるんだろうか。周りの目もあるし少し恥ずかしな。だが、目の前のトンカツを見てると普通に美味しそう。

背に腹はかえられない……、か。


「欲しいです。そのトンカツを一切れ分けて欲しいです。」

「はい!よく出来ました!」


あれ?なんか思ってたのとちがう。

陽姫は俺がトンカツを欲しいって言ったのをからかうでもなく。差し出してくる。

うん、俺の考え過ぎだったのかもしれない。

と、思い取り皿を差し出す。渡し箸はマナー違反だからな。

すると、陽姫は目をキョトンとさせた。


「え?トンカツくれないの?」

「先輩?何を勘違いしてるんですか?先輩、トンカツ食べたいって言いましたよね?」

「うん、言った言った」


なんだろ、すごく嫌な予感がする。


「先輩、あーん♡」


陽姫め!これが狙いだったのか!?


「ばっ!学校でそんなことできるわけないだろ?」

「え?せっかく私が直々に食べさせようと思ったのに拒否するんですね!?ひどーい!」

「ちょっと止めて!周りの目が痛いから!!!」

「食べますか?」

「食べないけども!」

「えー!?もぅ、じゃあ私が食べちゃいますね?」

「ああ、もうそうしてくれると助かるよ」


俺は半ば投げやりに言い、トンカツを堪能する陽姫が食べ終わるのをしばらく眺めていた。

俺が羨ましいそうな顔をしているのか、こっちを見ながら自慢げにトンカツを食べる陽姫の笑顔はいつもより楽しそうだった。



昼食を終えた俺たちは中庭に来ていた。

陽姫がどうしても一緒に中庭に行きたいって言ったから仕方なくなんだけどな。


「ねー、先輩?」


唐突に陽姫が語りかけてくる。

今の俺はトンカツと心地よい日差しによる眠気で頭がいっぱいだが、まぁ話し掛けられたら返さない訳にも行かないよな。


「どうしたの?」

「突然なんですけど……。」


と、陽姫はモジモジしだす。これは吊り橋でも同じ仕草をした瞬間があった。何か言いたいことを言い出せない時だ。


「ゆっくりでいいから陽姫の言葉で聞かせて?」

「ははは、先輩って本当に私が意地悪しても優しいですよね。もしかしてそういう性癖ですか?」

「そろそろ教室帰ろっか?」

「わー!!すみません!聞いてください!今のは照れ隠しなんです!!つい口が勝手に照れを隠そうと動いてしまうんですぅ〜!」


よ、よくもいけしゃあしゃあと!!

まぁ、聞いてあげるくらいはするか。何せ俺は陽姫にやってあげれてることが少ないからな。


「分かったから大声出さないで。で、話しってなに?」

「はい、実は……、」


と、難しそうな顔をして悩んでいる。どうやら相当言葉を選んでいるようだ。

まぁ、もう一泊とめてくれとかそんなのかな?

もし、そうだとしても今日は断るつもりだ。昨日の段階で一泊だけって言ったきぎするし……。

と、俺は心の中で軽く三つくらいの予想をたてる。

どうやら陽姫もようやく話す決心が着いたようだ。


「先輩、実は……、両親にあって欲しいんです!!」


聞き間違いかな?


「俺に誰にあって欲しいって?」

「両親です!」

「両親?」

「両親」

「まじか。」


どうやら聞き間違いではなく、本当に両親だったとは。

予想を百八十度超えてきて先輩ビビっちゃたよ。

はあ、これからどうなるんだか。

どうやら近いうちに胃薬と頭痛止めを買った方が良さそうだ。


と、現実逃避するしか無くなったのは言うまでもない……。

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