番外編(ハロウィン狂想曲)

「先輩、このカボチャそっちに置いて中に火を灯してください」

「りょーかい、……陽姫って本当に器用だね」

「そーですか?ありがとうございます!

いやー、先輩に褒められるとやっぱり嬉しいですね!!」

「ハイハイ、そんなこと言っても何もでませんからね。早く終わらそうね?子供たち来ちゃうから」

「むー、本当につれない先輩です!って本当だ、もうこんな時間ですね!!先輩!早く手を動かしてください!」


って手が止まってるのは陽姫だけなんだけどね!?俺はちゃんと作業してるからね?

そう非難の目を向けるも本人は素知らぬ顔でカボチャで出来たジャック・オー・ランタンを玄関の入口に飾る。


現在、俺達が何をしているかと言うと、地域のボランティアってやつだ。

俺達が住む地域はハロウィンの日に子供たちが仮装して各家を周りお菓子を貰う行事がある。去年は知らなくて子供たちに悲しい思いをさせてしまったのでお菓子を買い漁ってたのを見られ、陽姫にハロウィンのことを伝えたら


「やるなら私達も仮装しましょう!!ねぇ!やりますよね!?せんぱーい!やりましょーよぉーー!!!」


との事でそれぞれ衣装を買ってきて着替えてみたは良いものの、陽姫は魔女の格好、俺は包帯で腕やなどを巻いてミーラ男を再現しようとしたら、陽姫なマントの下がサキュバスのような際どい格好で痴女みたいになり、俺はミーラ男って言うよりかは、厨二病を拗らせた少年みたいにやってしまった。

マジでクオリティが低い。とりあえず陽姫にはマントをしっかり羽織って貰うように頼んで、俺は血糊でもつけたらそれっぽくなるかな?

あ、ダメだ厨二病感が増してしまった。

はぁ、もうこれでいっか。

素人の仮装ではこれが限界なのかもしれない。多分渋谷とにいる人たちはみんなプロなのだろう。そう思っとくことにしよう。

と、あらかた準備を終えた陽姫がマントをバサバサやりながら近づいてくる。

うん、自分の格好を考えような?マジで痴女ってるぞ?


「先輩!子供たちが来る前に私達もアレ、やりましょう!!」

「アレ?なにするの?」

「トリックアトリート!!」


そう言って両手を前に出してお菓子をせがんでくる。お菓子をくれないとイタズラするぞと、脅してくる。「お菓子なんてないけど?」ととぼけたいが、どんなイタズラをされるか想像もつかないのでお菓子あげることにしよう。


「冷蔵庫に駅前のケーキが入ってるから子供たちが全員帰ってから食べようね?」

「ええー!?なんでポッキーじゃないんですか!?ハロウィンのお菓子と言えばポッキーとハロウィン公式ルールで決まってるじゃないですか!!」

「そんなルール知りません!!第一ポッキーなんてあげたら絶対イタズラより酷いことするでしょ!?」

「しませよ!!私が先輩に酷いことなんてする訳ないじゃないですか!!ちょっとポッキーゲームと称して唇を嬲って全身を舐め回して!ハァハァ……」

「陽姫!?目が怖い!怖いよ!?」


そろそろ陽姫と暮らすことに恐怖を覚えてきた。この調子だと日々樹さんに頼んで一週間ぐらい出禁にしてもらおうかな……。


「ひ、陽姫、落ち着いて!ほら、深呼吸、深呼吸。……落ち着いた?」

「フゥ……フゥ……、な、何とか欲望を抑えることが出来ました。」

「本当に自分の欲求に素直だよね。まぁ無理やり襲って来ないだけ良いんだけど。ただ度を超えるようなら出禁にするからね?」

「は、はーい……。気おつけます……。」


そう言ってしゅんとしてしまう陽姫を見る。

はぁ、ハロウィンで子供たちも来るのにこのまま落ち込んでいてもなぁー。

何より陽姫が一番楽しみにしてたから、陽姫には楽しんで欲しいと思っている。……しょうがないか!


「陽姫、出禁は行き過ぎた。ごめん。だからそんなに落ち込まなくていいから。ほら、俺からも、トリックアトリート。このまま項垂れてるならイタズラしちゃうよ?」

「せ、せんぱぁーい!!」

「うおっ!」


出禁と聞いてショックを受けていたのか勢いよく胸に飛び込んでくる。


「もー!先輩好き!大好きです!!これ以上私を依存させてどうするつもりですか!!」

「いやどうもしないよ!?」

「しょうがないですね!もう特別サービスです!!お菓子もあげちゃうし、イタズラもさせてあげます!!」

「別に本当にイタズラするつもりは無かったよ!?ってマジでお菓子がポッキー!!」

「言ったじゃないですか!ハロウィン公式ルールで決まってるって!!ほら、先輩はこっち咥えてください!!」

「いやいや、咥えてないって……ムグッ!!」


喋ってる途中でポッキーを口に突っ込まれる。

気を使ってかクッキーではなくチョコの方を突っ込んできたが、それでも喉の奥が少し痛い。


「さぁさぁ!イタズラしないんだったら私からしちゃいますからね!?先輩、かくごぉ!!」

「ひはひひはひ!ひゃへへっへは!!」


しないしない!止めてってば!と言ったつもりがポッキーのせいで上手く喋れない。

そうこうしている間にも陽姫は俺の身体を床に押し倒そうと……ってなんだよこの力は!本当に女の子?ってぐらい力が強い。

どうせ本人に聞いても愛のパワーとか言い出すだけだろうから聞かないけどね。


完全に押し倒された。

今、俺の下腹部には陽姫が乗馬の要領でまたがっている。うむ、これはイカンな。何がってリトル陽太が暴走する危険が。


「先輩、イタズラしちゃいますね?」


そう甘く耳元で囁いてくる。

顔を背けようにも両手でがっしり固定されてるので動かすことも出来ない。


「ほらほら、先輩?抵抗しないんですか?って抵抗出来ないようにしたのは私ですね!それじゃ、頂きます!!」


そう言って俺の咥えてるポッキーの先からどんどん食べ進めてくる。やばい!と思うが何か出来るわけでもない。

もはや諦めるしか道はないらしい。


あと5センチ……


あと2センチ……、ああ、さよなら俺のファーストキス。


意を決して、目を瞑る。



「「「トリックアト……リ…………ト………………。きゃあー!!!!!!」」」


目を開けて見ると、そこには下の階に住む磯辺 凪ちゃんをはじめとした女の子たちが玄関を空けて立っていた。

みんな魔女やお化け、ミイラなど思い思いの仮装を楽しんでいる。

一方、俺達、痴女と厨二病コンビの俺達は……、びっくりし過ぎて固まっていた。


「あ、あ、お邪魔しましたー。ごゆっくり〜」

「ちちち、違うよ!?勘違いしないで!ていうか小学生なのに気を使わなくていいから!!」

「そそ、そうだよ!!私と先輩は大人のハロウィンをしていただけで……!」

「「「お、大人のハロウィン!?」」」

「陽姫!子供たちが引いてるし誤解を生むような言い方しないで!?」

「はわわわわ!やっぱり私達お邪魔したよね!?ごめん!!」


カオスだ。完全に混沌だ。

もうこれ収拾つかなよ。誰か助けてくれよ。

最終的にその騒動は十分くらい続いた。



ようやく皆が冷静になった。


「と、とりあえずハロウィンだからお菓子だけでも持ってって欲しいな。あと、さっきのは誤解だからね?あんまり人に広めちゃダメだよ?」

「はーい。それじゃ陽太兄ちゃん!ばいばい」

「おう!ばいばい!」

「あ、そうだ、陽太兄ちゃん、耳貸して!!」

「ん?」


凪ちゃんの背丈に合わせるように屈む。


「このアパート、壁薄いから大きな声出させちゃダメだからね?」

「ご、誤解だ!!」


はい、結局誤解は解けなかったようです。


「くれぐれも人に広めちゃダメだからね?間違った情報が広まっちゃうから」

「うん!分かってるって!じゃあねー!!」


一応、何回も釘を指したので大丈夫だろう。

そう思って凪ちゃん達を見送る。

凪ちゃん達が見えなくなった頃、俺は隣に目を向ける。はぁまた落ち込んでるよ。


「陽姫「先輩!」」


俺が声をかけると目に涙を浮かべこっちを見てくる。


「本当にすみませんでした!!」


そう言って頭を下げてくる陽姫。……そこまでやられたら怒れないじゃないか。別に怒ってる訳じゃないけど。


「別に怒ってなんかないよ。だからほら、顔上げて」


そう言って陽姫の頭を撫でる。

だが今度はさっきみたいにすぐ顔を上げない。


「おい?どうしたの?」

「なんで、なんで怒らないんですか?」


なんだ、そんなことか……。


「別に、呆れてるとかそんなんじゃないよ?俺は陽姫に笑ってて欲しいんだ。説教したら気まずくなるでしょ?そういうのは嫌だなって思って。それに案外、俺は陽姫と騒ぐの嫌いじゃないよ?まぁ、いきなりキスしようとするのはアレだけどね」

「じゃあ、これからもずっと傍にいてもいいですか?」

「うん!もちろん」

「先輩!!」

「今は甘えるのは無しだよ?他の子達も来るからね。あとイタズラも程々にね?」

「はい!それじゃー!ハロウィン、楽しんで行きましょう!!ほら!先輩!そうと決まれば衣装直しからです!!なんですかその適当な包帯は!!私が巻き直してあげますから!!」

「おう!ありがとう」


少し、甘すぎると言われるかもしれない、だが、この子が笑っていられるなら、あの橋で見た顔を二度とさせないように俺は陽姫と過ごしたいと思った。










「「…………、」」


『この間のハロウィン行事で一部、風紀の乱れが確認されたようです。皆が住みやすい、より良い街にするためにも、不健全な行為などは絶対にやめてください。

地区会長』


二人で地域の掲示板を見て絶句したのはここだけの話だ。やはり子供の口にチャックは出来ないらしい。

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