後輩の乱入
台所から肉と野菜を炒むいい匂いが流れてくる。
陽姫は鼻歌混じりに鍋の中で具材を調理していて久々に人の手料理を食べれる俺も少しだけテンションが上がっていた。
「なぁ、何を作ってるの?」
「今日はカレーです!!まぁ、ベターですが……」
「カレーか、大好物だよ」
「そうなんですか?なら先輩の為に私、めっちゃ頑張りますね!?」
「ああ、いやほどほどでいいからね?」
「む!なんでそこで微妙な顔するんですか!!見ててくださいよ!?必ず先輩をギャフンと言わせてやります!」
いやいや、料理でギャフンと言わせちゃダメだろ……。てか俺も見ているだけじゃなんか悪い気がするな。
「何か手伝おうか?」
「じゃあ一ついいですか?」
「ああ、俺にできることなら」
「はい、簡単ですよ?私に後ろから抱きついてください。この前のドラマで見てから憧れてて……てへへ!」
「出来ればそれ以外ので頼む」
「ブー、それならサラダを作っててください」
うん、サラダくらいだったら出来そうだな……。
俺に気を使って簡単なものを選んでくれたみたいだな。
「このレタスときゅうりでいいの?」
「はい、トマトもあるから使って下さいね?」
「分かった」
そしてしばらく野菜を切ったり洗ったりしてると陽姫から視線を感じる。
「フフフ!なんかこうして並んで料理してると夫婦みたいですね!」
なんてこっちを見ながらニコニコしてる。
「よそ見してると、ほら焦げてるよ?」
「え!?あわわわわ!!!あっちゃー……」
「まったく何してんの……。」
そんなハプニングもあったもののその後も順調に夕飯の支度は進み、あっという間に六時半。
そっか、もうこんな時間か……。
「陽姫、お風呂沸いてるから先入って来れば?あとは煮込むだけでしょ?俺がやっとくよ」
「いえいえ、先輩から入ってください。私が先輩の残り湯を堪能しますので!」
「君、少しは隠したら?欲望に忠実だよね。あと、今すぐ風呂入ってきて。俺が入ったらお湯抜くからね?」
「ええー!!!そんなぁ……。うっ……うっ……、」
陽姫は泣いた振りをし始める。
ん?え!ガチ泣きだった……。でも正直残り湯どうのこうのは少し気味が悪いのでやっぱり先に入ってもらおう。
「泣いても無駄だから、さっさと入ってきて」
「ちぇー、分かりまよーだ……、」
ふぅ、ようやく行ってくれた。
部屋が急に静かになった気がすることから陽姫がどれだけ騒がしかったか分かる。
でも料理の腕はそれなりなようで鍋の中を覗くと美味しそうなカレーがほぼ完成していた。
それからしばらくして少しつまみ食い……じゃなかった、味見しながら鍋の中身をゆっくり回してると、廊下から陽姫が出てくる。
「先輩、上がりました〜」
「おかえり陽姫、さっぱりしたね」
「はい!これで私も先輩と同じ匂いですかね?」
と、自分の身体やら髪をクンカクンカする陽姫、これさっきも思ったがもはや変態の沙汰だな。
「まぁ、とりあえず俺も入って来るからテレビでも見てゆっくりしといてよ」
「先輩、私の残り湯飲んでもいいですけど程々にしてくださいね?お腹壊しますよ?」
「なんで飲む前提なの……。誰もそんなの飲まないよ」
「……飲んでもいいんですよ?」
「飲まない」
「飲んでも「もういいわ!」
しんどくなった俺はそそくさと風呂場へ撤退、服を脱ぎ洗濯カゴへ投げ入れる。洗濯物の山の頂上にピンク色の下着がセットされていたが俺の服を被せておけば、誘惑されることもあるまい。
浴場に入り閉めたドアに玄関から持ってきたつっかえ棒をセット。これは……、ないと思うが一応の保険だ。まぁ、ないと思うけど……。
あらかた体を洗い終えて湯船に浸かる。一日の疲れがとれると言うが本当にその通りだと思う。
こう、身体からなにか染み出していく感じがたまらない。こうして風呂に入ると日本人であることを自覚するよなー。
ふと、今日一日のことを振り返る。本当に色々あったな、昨日まで人と極力喋らずに暮らして今朝も一人で家をでて吊り橋に行ったら……、
「変わった子を連れて来ちゃったなー……、」
つい言葉に出てしまった。
だが、本当に変なやつだと思う。だって普通人の自殺を止めようとする時「私の為に生きてください」なんて言う人がいるだろうか?……いないだろうな。そんな陽姫だからこそ俺も死ぬのを思い留まったのかもしれない。
なんて考えていると、
「せんぱーい!お背中ながしましょっか〜?」
脱衣所から声が聞こえる。
「いいや、遠慮しとくよ」
「そんな!遠慮なんてしないでください!ほら、私に生まれた姿の先輩を見せてくださいよ!!」
なんて危ないことを口走りながら浴場のドアを開けようとする陽姫。
しかし、良かった!保険のつっかえ棒がちゃんと役に立って、ドアが開かない。
「む!なんですか!?なんで開かないんですか!?どうして私を拒むんですか!?一緒に入りましょうよ!!さあ!さあ!」
「叫ばないで!近所迷惑だから。あと拒む理由については今自分がしていることをよく考えれば分かるはずだ!」
「考えました!分かりません!開けてください!」
清々しいほど即答だなおい。
「絶対にいやだ!」
「そんなことを言わないでほらぁー!!!」
「そうか、そこまで言うなら」
「開けてくれるんですね!?」
「俺が上がるまでの間に荷物をまとめといて。それが嫌なら今すぐリビングに帰って」
「そ!それはずるいじゃないですか!?そんなの引き合いに出されちゃ私……、
先輩、私ぜったいに諦めませんからね?いつか先輩の背中を流して見せます。」
背中を流すとか言ってるがさっき生まれた姿がどうこう言ってたのはもう忘れたのだろうか?
「陽姫はそれが目的じゃないでしょ?」
「チッ!勘のいい先輩は嫌いです!」
「そうか、なら出てって貰っても構わないが?」
「ああん!嘘です!嘘ですから意地悪しないでください!」
「分かったから!俺が悪かったから陽姫を追い出そうなんてしないから、そろそろ戻って!」
「絶対ですよ?絶対追い出さないでくださいよ?」
陽姫はそれはもう念入りに俺に念を押してやっとの事で出ていった。
余談だが、後日つっかえ棒は玄関の外で陽姫が日曜日大工とかほざいて八等分くらいに切っていた。どうやら今後の課題は風呂場に鍵を取り付けることになりそうだ。
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