後輩は甘えたい

学校が終わったのか帰宅する高校生とすれ違いながら今夜の夕飯の材料を持って陽姫と2人で歩く。


「先輩、片方持ちましょうか?」

「片方ったって荷物一つしか持ってないけど何企んでるの?」

「二人で持ったら恋人っぽいじゃないですか」

「やっぱ一人で持つからいいよ」

「ああん!先輩のいけず!」


こんなやり取りをするのもスーパーから帰って来るまでに五回以上やってるぞ。陽姫は同じことばっか飽きないのかな?

と、そんなことを考えてる間に家に着く。


「ただいまーっと」

「ただいま帰りましたー!」

「はい、おかえり」


そんだけで嬉しそうな顔をする。


「うん、陽姫はやっぱ笑ってた方が可愛いよ」

「もう!またそんなこと言う!先輩は私をどうしたいんですか!照れ死させるつもりですか!?」

「あはは!何言ってるの?」

「しかも無意識なんですか!?」

「?……、何が?」

「はぁ、もう何でもないです。台所借りますね?」

「あ、了解。じゃあ俺は風呂でも沸かして来るよ。あ、着替えとか持ってる?」

「あ!!ないですね」


まぁ、こんなことだろうとは思ったが、どうする?俺の着させるか?嫌じゃないかなー……。


「あのー、嫌じゃなければ俺のジャージ着る?」

「全く嫌じゃないです!!むしろご褒美なんですけど……、」


ご褒美って、なんだよ。てか途中で歯切れ悪くなってるし……。嫌なら嫌ってハッキリ言って欲しかったかも。いやハッキリ言われたら言われたで悲しくなりそうだけどな。

そんな下らないことを考えていると、顔を赤くした陽姫が、


「ほら、ジャージとかは喜んで着ますけど……下着?とかあるじゃないですか……。なんて言うか毎晩つけてるので、ないと多分寝れないかと……。それと、先輩の匂いに包まれてたら寝ることも出来ないかもですし…ゴニョニョ……」


後半は小声で早口だった為、なんて言ったかよく聞こえなかったが、なるほど、下着か……。って何想像してんだ俺!?


「あー、下着ね、どうする?今日はもう帰る?」

「そんな期待した目で見ないでください!帰りませんよ!?下着がないならノーパンでだってここに居座りますからね?」

「それはやめてくれ、ってか本当にどうすんの?」

「あー、姉に頼もうと思います」


へー、お姉さんか。でも家出してるって言ってなかったっけ?


「家出中なのに大丈夫なの?家族に連絡して」

「まぁ喧嘩中なのは両親とですからねー。姉とは基本仲がいいんですよ」

「そーなんだ」

「はい、私にとっても優しいんですよ。お父さんに叱られてご飯抜きになった時もこっそり部屋におにぎりとか持って来てくれますし……。

吊り橋でなかなか飛べなかったのも姉の存在が大きいです」

「いいお姉さんなんだね」

「はい、とっても!」

なんだろう、お姉さんの話をする時の陽姫はとっても楽しそうだった。

と、早速お姉さんに電話をかけ始めた。女の子って電話とか聞かれるの嫌じゃないのかな?席外した方がいいのか?とか考えたが結局、俺の家だし他に部屋がないということでその場に留まることにした。


「あ、もしもし!百合姉?うん、ごめんね?心配かけて……。え?ううん、大丈夫だよ。

うん、うん、お父さんとお母さんは?うん、そっか……。まぁ、それは明日話し合いたいって伝えててくれない?

今日は頭冷やしたいから友達の家に泊まる。うん。あ、言いにくいんだけど、そのー、着替えと歯ブラシ持って来てくれない?え

ー!?そこを何とか!!え?ハーゲンダッツ?もう、しょうがないな。分かった。うん、ありがと。

じゃ、トンネル横のコンビニで待っとくね?」


どうやら電話は終わったようだな。


「先輩!ちょっとコンビニ行ってきますね!」

「あぁ、行ってらっしゃい」

「はい!行ってきます!」


そう言うと陽姫は綺麗な笑顔を向けてきた。少し見とれてしまったが、そこは多めに見てほしいものだな。

さて、一人になったんだし陽姫が帰ってくるまでゆっくりさせて貰うかな……。





三十分後、陽姫はまだ帰って来ないなーと思いながら待っていた。コンビニってかそんなに遠くないもんな、お姉さんが少し遅れているのかな。

など、考えているとガチャリと玄関が開く。


「先輩!ただいまです!」

「おう、おかえり」

「え?なんですか?その笑顔は。もしかして私が帰って来たのがそんなに嬉しかったんですか?」

「まぁ、心配はしてたかな」


いかんいかん、どうやら顔に出てたようだ。

にしても、陽姫はおちゃらけているが、少し目が赤くなっている、だがスッキリした表情からは悲しくて泣いたのではないことが分かる。


「先輩!私、頑張りました」

「おう、正直何を頑張ったか分からないけど、お疲れ様」

「ご褒美欲しいです!抱き締めてください!」

「陽姫、本当に抱き締めるの好きだね、何かこだわりとかあるの?」

「いえ、今まではなんとも思わなかったんですが、吊り橋で先輩に抱かれた時すっごい安心したんですよねー」

「言い方……。抱いたって変な風に聞こえるからやめよ?」

「そんなことどうだっていいです!早く抱き締めてくださいよ!」


ま、今回は本人も何か話をつけてきた感じだし、何かしら頑張ったのは確かだろう。しょうがない、抱き締めてあげるか……。


「あ、あふぅぁ……。しぇんぱ〜い……。」


軽く頬を染めて蕩けた顔をする陽姫。そのまま俺の胸板に頭をなすりつけている。なんか猫みたいだな……。


それからしばらくして陽姫はひとしきり甘えて満足したのかハイテンションで夕飯の準備を始めるのだった。

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